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24話
ブランは「オレの村に行こう!」と、オオカミの姿になり、みんなを乗せて走った。ブランの領地ススロ村はゴルバック国――西の最果ての地。
ブラン達と村へ行く途中に見えた戦争の爪痕は、目を当てられない。復興するといっても、そんな軽々しいものではなかった。
(でも、はびこる瘴気なら払える……)
私はブランのお母様から頂いた力で浄化した。
「ヒーラギ、ありがとう。森が、大地が喜んでる」
「そうだね……作物が育つようになる」
「ニュ、ニュ!」
この大地に新たな命が芽吹きますように。
ブランの領地――ススロ村は森の中に平屋建ての家が並ぶ、小さな集落だった。住む村人は畑仕事に行っているのか……村の中は誰も居らずひっそりとしている。
「ブラン、ヒーラギちゃん、スラとその辺を散歩してくる」
「ニュ、ニュ」
村の前まで来たロンさんはそう言うと、スラと手を繋ぎ、何処かへと行ってしまった。
「ロン師匠達はすぐに戻ってくるよ。さあ、ヒーラギ行こうか」
「うん」
ブランの背に乗って村を歩き、村から少し離れた平家建ての前で足を止めた。その木造平屋建ての家の外には、干し肉と野菜、薬草が干されている。
「ここがオレの家だ、何もないけど」
「それは言わないの! そこに、干しているお肉って魔物のお肉?」
「そうだよ。ウルスっていう魔物の肉なんだ。ヤツの肉は干した方が、旨味が凝縮して美味いんだ」
「じゃ、となりのお野菜は?」
「あれはえっと、ダダイコンだ」
「ダダイコン?」
緑色の葉っぱがついていて、真っ白く長い野菜。
「え、知らないのか? ダダイコン――人間だと大根だったかな? 人間の国も食べられているだろう?」
ブランに聞かれたけど……知らないと首を振った。
王城で出された食事はかたいパンと、キャベツの葉と玉ねぎのスープ。たまに野菜の切れ端サラダだったから。
知らないうちに食べているかもしれないけど、ほとんどが細かく切ってあって味が薄かった。
「多分、食べたことがないかも」
「じゃ、あとで大根のスープを作るよ」
「ほんと! 私も料理のお手伝いする……ブラン、じゃ、アレは?」
初め見るものが多くて、人型に戻ったブランの袖を掴んで、散々聞いて回った。だけど、ブランは嫌がらず、笑いながら色々と教えてくれる。
「クク、ヒーラギ、聞くのは終わった?」
「うん、初めての物ばかりで面白いわ! ブランのウチの中にも、私の知らないものがたくさんありそう」
「おい、そこは期待するなよ。何にもないから」
「わかってる、行こう」
「どうぞ、ヒーラギ」
玄関を開けて入ると、ブランの家の中はいたってシンプル。近くに小さなキッチンが見えて、窓側に一人掛けの椅子と本の山。
お風呂とトイレ、調合器具と本などが散らばった寝室があって。脱いだ服は脱ぎっぱなしで、薬草はでっぱし……ほぉ、男の人の部屋はこんな感じなんだ。
匂いも、どことなく薬草の匂いがした。
「ヒーラギ、あんまり、その辺をジロジロ見るな! おい、匂いを嗅ぐな」
「え、ダメだった? あ、このアンヘル草とコッチ薬草はポーションの材料ね……このアンヘル草、すごくコンディションがいいわ」
乾燥の仕方が私よりも上手い。
これなら上級、ううん最上級のポーションが出来るはず。こっちの紫色の薬草はなに? 見たことがないキノコと木の実もあった。
「ねぇ、ブラン。これらの薬草は薬になるの?」
「ああ、紫の草はダート草と言って腹痛の薬になる、このマダラキノコとアークの木の実は風邪薬だな。――そっか、ヒーラギも薬草を採取して、ポーション作っていたんだもんな」
コクンと頷いた。
「ええ、遠征で薬草を見つけるたびに採取して、集めて、ポーションを作っていた……ブランはすごい。私が作れるのはポーションくらいで――腹痛の薬、風邪薬は作れないわ」
「おいおい、くらいって……自分で採取をしてポーションが作れるんだぞ! 手に職があるのと一緒だ、それが最上級、上級なら、どの国でも引く手数多だ(多くの人に誘われる)だから、ヒーラギは自信を持っていいんだ」
ポン、と頭の上にブランの手が乗り、優しく撫でてくれた。……撫でられるのって気持ちいい。特に、ブランの手は大きくて温かくて、心がほんわかする。
「ブラン、あ、ありがとう……嬉しい」
「うわぁ、なに泣いてんだぁ? ヒーラギ?」
「だって、褒められたり、優しくされて……私」
ブランに泣き顔を見せたくなくて、抱きついた。それは大間違いだったらしくて……ブンブン、ブンブン、ブランのモフモフな尻尾が激しく揺れる。
「は、離れろヒーラギ……俺はさっき忠告しただろう? その、我慢していると……」
「ブラン?」
涙目、上目遣いで、とどめの一発を繰り出したらしく。「許してくれぇ!」と、優しくブランにキスされた。
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