25話

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25話

 ブランはキスのあと震える手で、私を優しく抱きしめた。 「ヒーラギ、好きだ……可愛い」 「ブラン……」  涙目で、幸せそうに笑っちゃって。  ブランは私のこと好き過ぎたよ――そして、私よりもずっと大人の人だけど、可愛い人だな。  温かな彼の腕の中で、私は瞳を瞑った。  その温かさが離れ、スリ、スリッと鼻と鼻を擦り合わせ、壁にかかる時計を見たブラン。 「もうすぐ昼だな……お昼は大根と卵スープにして。あとはマジックバックに鶏肉があったから、香草焼きにでもするか」  チキンの香草焼き?  名前から美味しそう。 「それで、お願いします」 「コメもいいが、パンを焼こう」   「私、チーズパンが食べたい」 「チーズパンか、いいな」  ♱♱♱    お昼の時間となって。ブランの家のキッチンで横並びに立ち、昼食の準備をはじめた。もちろんスープ、チキンソテーなどの料理を作るのはブランで、私はもっぱら味見役だ。 「ヒーラギ、あーん」 「あーん」  焼き上がった香草焼きのチキンの、切れ端が口に入ったとき。ブランの玄関が開き『ブラン!』と呼び、ロンさんとスラが入ってきた。  あ、モグモグ……ゴクン。 「おかえりなさい」 「おかえり、ロン師匠とスラ……」  いきなり玄関を開けたロンさんとスラは、私とブランを見て『ハハッ……おじゃまだったかな』『ニュ』と、オデコをポリポリかいた。 「別に、気にしなくていいよ。それで、そんなに慌てて何があったんだ?」 「ブランに速報だ! 魔王が人の国を制圧して、魔王嫁を救出した。アリカももちろん無事だ……そして、ヤン率いる、竜人軍は国民を傷つけることなく――黒狼王国の王城を陥落させた」  そのロンさんの報告に、ブランは喉をヒュッと鳴らした。 「父さん達が陥落――そうか、俺達の計画は全て成功したのか……ふうっ、これで全て終わった」 「ニュ」 「ああ、終わったね……。それでヤンは国王と王妃、王子2人に『貴様らを殺しはしない! ただ、一生キズが治らない、俺の嫁に頭を下げて欲しい』と言って、彼らをひれ伏せさせたらしい」 「スゲェ、プライドが高い弟達に頭を下げさせたのか、ヤンらしいな……でも、嫁のキズは魔王にも治せなかったからな」   「うん。彼女の瞳を再生させるには――相当な技術と魔力がいると魔王は言っていたよ」 「…………そうだな」  今、ロンさんとブランが話だした話しは。  魔王と人の国デュオン国、竜人軍と黒狼国の戦いが終わったみたい。そして、ブランの友達――ヤンの奥さんのキズが治らないと話している。  そのキズ、私の力が使えないかな? 「ねぇブラン、ロンさん。そのキズを治すのに私の癒しの力は使えない?」  あっ! と、ブラン、ロンさんは同時に私を見た。 「そうだ、ヒーラギがいた! ヒーラギの力で、もしかしたら治せるんじゃないのか?」 「おお! ブラン嫁の力、聖女の力なら彼女の瞳も治るかもしれない。奇跡を信じたい! ぼ、僕、至急、ヤンと嫁を呼んでくるよ」 「あ、ロン師匠、お昼は?」 「戻ってから食べる! 行くよスラ」   「ニュ?」  なぜか、ロンさんはスラも連れて出て行った。  ♱♱♱ 「師匠、気を使ったな……」    やっぱりロンさんは私達に気を遣って、スラも連れて行ったみたいだ。   「まったく、気にしなくていいのに……まっいいっか、ロン師匠とスラがヤン達を連れて戻るのを待つあいだに、俺達は昼食でも食べるか」  ブランは食卓を片付けて、出来立ての料理を並べた。 「ヒーラギ、座って」 「うん」 「「いただきます!」」  先ずは熱チーズがとろーりとける、チーズパンから一口かじった。熱々、カリカリのパンと濃厚なチーズが美味しい。このトロトロチーズを焼いたソーセージ、ジャガイモに乗せても美味しいだろう。  ブランも、チーズパンをかじり。 「チーズうまっ! ヒーラギ、残ってたソーセージを焼こう。このとろけたチーズをソーセージにかけて食べたら、絶対に美味い!」 「私も今そう思っていたわ」  ブランは立ち上がり、マジックバックから朝のホットドックに使った太いソーセージを出して。一度ボイルしてからフライパンで焼き始めた。 「ううん、ソーセージの焼ける匂いって、また食欲をそそる」 「そうだな。ソーセージが焼けたぞ、火傷に注意な」 「えぇ!」  焼きたてのソーセージをフォークにさして、パンからこぼれ落ちた、とろーりチーズを乗せてかじる。チーズの濃厚な味わいと、ソーセージがパリッと弾け肉汁があふれる。 「美味しい!」 「うまい!」  2人の声がハモる。 「ハハハッ、ヒーラギ、ドンドン食べよう!」 「えぇ! この香草焼きのチキンはハーブの香りがいいわ。大根のスープは優しい味付けね。ブランにお行儀悪いって言われるかもしれないけど、このスープをコメにかけて食べたい」  アクセントに黒コショウを振ると良さそう。 「それ残ったスープで俺もよくやるよ。アクセントにカリカリに焼いたベーコンと、黒胡椒を振るとまた美味い」 「うわぁ、ベーコン⁉︎ 美味しそう」 「ヒーラギ、夕食はそれにするか!」 「うん、するする!」  私達の賑やかな昼食は続いた。
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