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26話
昼食を食べ終えて、ブランと並んで片付けをしていた。ドォン! と衝撃音と共にブランの家がぐらつく。
「きゃっ、なに?」
「……大丈夫だ。これは竜人のヤンがドラゴンの姿で、ココまで飛んできたんだ」
ドラゴン⁉︎ ブラン、見に行こうと言う前に乱暴に玄関が開き、短い黒髪のいかつい男性が、同じ黒髪の綺麗な女性をお姫様だっこをして現れた。
「〈ブラン、ロンとスラに聞いた! ……人間の世界にいた最強聖女がココにいるって、本当なのか!〉」
「⁉︎」
耳を手で押さえた、声が大きい。
ブランも、フワフワな耳を抑え。
「ヤン、落ち着け……最強聖女のヒーラギがお前の声の大きさに、ビックリしてる」
「〈声? そうかわかった!〉」
まだまだ、彼の声は大きい。
「……ブラン、その最強聖女って?」
「ヒーラギの事だよ」
声を落としたヤンさんから、リコさんの瞳のことを聞いた。ブランの話の通り、彼女は瞳にケガをして以来、見えないそうだ。
「ヒーラギ、頼めるか?」
「はい、がんばります」
「〈よろしく頼む!〉」
「はい!」
いまから、リコさんの瞳を治す。
大丈夫、前に負傷した騎士の腕、足の再生をした経験はある。だけど、瞳を元に戻すことはまだ経験がない。デュオン国の聖女のとき王城の書庫で書物を読んで、手帳にしたため、頭には叩き込んである。
だけど失敗をしたら? と、迷いの心が芽生え、迷っていてら。ブランに背中をバシッと叩かれた。
驚いて、彼を見ると笑っていて。
「ヒーラギ、自信を持て、俺のキズも治しただろ!」
「治したけど……腕と足、瞳を再生させるのは繊細なの……慎重にやらないといけない。……もしすると、失敗するかもしれない……」
失敗を恐れた私に。
「〈私は失敗しても何も言わない! お願いします〉」
「〈リコ、そうだな。どこに行っても無理だと言われた。あの魔王様でさえ治療できなかったんだ……頼む、聖女の奇跡に期待させてくれ!〉」
お2人とも熱いわ……私は決意して大きく息を吸った。
「ヤンさん、リコさん、はじめます」
♱♱♱
ブランとヤンさんには後ろに下がってもらった。リコさんと食卓の椅子に向き合って座り、彼女の手を握った。
――やるわよ。
全集中して、癒しの力を体に集めて回復魔法を唱える。
「『ヒール』」
キラキラと、癒しの光が私からリコさんに降り注ぎ。彼女が損傷した瞳の損傷箇所を、ジワリジワリと癒やしていく。
「あっ、ああ……瞳の奥が熱いわ」
いま、リコさんに私の癒しの力が効いている。もっと、もっと、力を彼女に降り注げ。
「もう少しです……もう少し。…………ふぅ、これでリコさんの治療は終わりました。瞳の熱が引きましたら……ゆっくり、瞳を開けてみてください」
「はい、聖女様」
リコさんの緊張がヤンさんに伝わったのか、2人は同時に息を吸った。瞳の熱が引いたのか、リコさんは私の手を強く握った。
(あ、リコさんの熱が引いたのね)
「聖女様、ヤン、ブラン……私、瞳を開けます」
「はい。どうぞ、ゆっくり開けてください」
「リコ、ヒーラギの言う通り……ゆっくりだ、ゆっくり、目を開けろ」
「そうだ! リ、リコ、落ち着くんだ」
ヤンさんとブランがリコさんの周りに集まり、彼女より焦っている。
「フフ、2人の方が私よりも緊張しているわよ」
リコさんの瞳が少しずつ開かれて、綺麗なエメラルド色の瞳が見えた。久しぶりに光を感じのか、リコさんはいちど瞳を細めた。その瞳が再び開かれて、私を見たリコさんの瞳は大きくなり。すぐに後ろに立つ愛する人――ヤンさんを見た。
「あ、ああ……嘘」
彼女の瞳がキラリと光る。
「見える、見えるわ! 聖女様、ありがとう……ありがとうございます」
ポタポタと涙に濡れるリコさんの瞳。
そのエメラルド色の瞳は更に大粒の涙が溢れさせた……ヤンは震えながらリコさんに近付き、彼女の前でひざまついた。
「ほんとうか? リコ? ……見えているのか? オレが見えるのか?」
ヤンさんのその問いに、リコさんは彼の手を握りしめて、ウンウンと何度も首を縦に振った。
「えぇ、ヤン、ヤンだ……すごく、男らしくなったね……素敵だわ……私、こんなに素敵なあなたに毎晩、抱きしめられて眠っていたなんて……照れるわ」
「リコだって綺麗だ、愛している」
「私だって、ヤンを愛しているわ」
ヤンさんは下から、リコさんをキツく抱きしめた。ヤンさんに抱きしめられた、リコさんは幸せそうに微笑んだ。
(よかった……幸せそうで)
「ヒーラギ」
「ブラン?」
いつの間にか隣にきた、ブランに手を握られて。
「……しばらく、2人きりにするぞ」
「う、うん」
ヤンさんとリコさんを残して、私達はソッと外に出た。
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