793人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
27話
家の外でブランの手を取り喜んだ。
「よかった、ブラン。リコさんの瞳が治ってて……」
「ああ、よかった。ありがとう、ヒーラギ」
「でね……いまの私なら、できると思うの」
「できる? なにをだ?」
ブランの瞳を真っ直ぐに見て、伝える。
「私、まだ使ったことがない……回復魔法を使ってみようと思うの」
「使ったことがない、回復魔法?」
ブランの家に着くまでにケガをしたり、大怪我を負った村の人々を見た。いまブランに伝えた回復魔法を使うのなら、とてつもない魔力量は必要だけど。この『広域回復魔法』を使えば一気に、村のみんなのケガを、治せるんじゃないかと思う。
この魔法を使ったあと、私はしばらく動けなくなるかもしれない。だけど、いまはブランの昼食も食べて元気だから……絶対に回復魔法はいけるはず。
「それで、なんていう魔法なんだ」
「広域回復魔法なんだけど……」
「広域回復魔法? ……ヒーラギがその魔法を使うのはいいが、魔力切れを起こすんじゃないか?」
そうだと、コクリと頷いた。
「えぇ魔力切れを起こすと思う。だから、ブランには横で手を繋いで、私を見守っていて欲しいの」
魔力切れは、一歩間違えれば命に関わるからか、渋い顔をするブラン。でも私の顔を見つめて、ため息をついた。
「無理なときにはやめろよ」
「うん、わかった。……じゃ、始めるね」
ブランと手を繋ぎ、片方の手は胸にすえた。目を瞑り魔力を高めて高めきったら、それを全て出し切るように私は唱えた。
「広域回復魔法【ワイドエリアヒーリング】」
私の足元に癒しの魔法陣が広がり、この村を覆い尽くす。魔法陣が消えると同時に『癒しの雫』が、雨のようにキラキラと村全体に降り注いだ。
魔力枯渇まではいかなかったけど……大量の魔力は使い、ふらつく体をブランは支えたくれた。
「大丈夫か、ヒーラギ」
「うん、平気みたい。ブランのご飯のおかげだね?」
「ブラン! ブラン嫁!」
「ニュ、ニュー!」
散歩に出ていた2人が巨大な魔力を感じて、こちらに向かって走ってくる姿が見えた。
「ハァ、ハァ……。村のみんなと話していたら、とてつもない魔力量を感じた、けど……もしかして、ブラン嫁がやったの?」
その問いに私ではなく、ブランが答えてくれた。
「そうだよ、いまヒーラギが"広域回復魔法"を使ったんだ」
「広域回復魔法? ……すごいな。その癒しの光りを浴びたら、治らなかった胸の古傷が治ったよ」
「え? ほんと? いろんな癒しを試してもダメだった、ロン師匠の……奴隷焼印の痕を治したのか?」
"そうだと"嬉しそうに、ロンさんは頷いた。
「ニュ!」
「スラも喜んでくれる?」
「ニュ――!!」
「ありがとう! ボクの嫌いな奴隷の火傷アトが消えた、こんなに嬉しいことはない!」
二人は手を繋ぎ、喜び、しまいに2人は踊りだした。
そこにマントを付けた、真っ白な大きなオオカミが現れた。その白いオオカミは私の側まで来ると、姿を変え、真っ白な耳と尻尾、真っ白な長い髪が印象的な女性に姿なる。
「「⁉︎」」
この女性の登場にロンさんとスラは踊りをやめて、一歩下がり頭を下げた。
その畏まる姿に。
「ロン、スラ、かしこまらないの。いま、とても懐かしい癒しの力を感じた。可愛いあなたが、この回復魔法を使ったの?」
「は、はい、そうですけど……」
ブランに支えられながら、答えると女性はニッコリ笑い、隣のブランに話しかけた。
「ねぇブラン……この子が、子供のブランを助けてくれた、前からズッと好きな子?」
「そうだよ、母さん」
か、母さん?
この人が、ブランのお母様?
そうだ、挨拶。
「……は、初めましてヒーラギと言います。ブラン君には……大変お世話になっております」
会釈すると、ブランのお母様はニコッと微笑んた。
「ふふっ、ブランの母です。私、次に女の子が欲しかったの……こんなに可愛い娘が出来るなんて、お母さん嬉しいわ。ブランとの挙式はいつ? 子供は何人産むの?」
お母様はガシッと、私の両手を掴んだ。
「えっ、子供ですか⁉︎」
「ま、待って母さん⁉︎ ヒーラギが可愛いのはわかるけど、結婚だとか子供は気がはやいよ」
「そうなの? ヒーラギちゃん、ウチのブランはよく働くし、いい子よ。ぜひ、お婿さんに貰ってやって。ずーっとウチの子、ヒーラギちゃんが『好きで、好きで、大好き』だから、移り気の気がかりはいらないわよ。ウチの旦那の様に、愛は重いかもしれないけど……」
「母さん!」
誰もウキウキ喋る、ブランのお母様を止められなかった。
最初のコメントを投稿しよう!