2話

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 執事に話したのは、昨夜の舞踏会でのことだ。  弟は一息つくと、真剣な面持ちで話し始めた。 「なんでも、異世界から来た女性を新聖女と呼び。お姉様の聖女として十周年記念の舞踏会でローザン王太子殿下が、ヒーラギお姉様に婚約の破棄を言ったのは本当なんですか? 僕は執務の仕事が終わらず、舞踏会に行けなかったので……」  ――舞踏会に来られなかった?  それは両親が遊び呆けているせいね。  屋敷に戻って見れば……十年前は大勢いた使用人が数名しか残っていない。弟は幼いながら、残った使用人と領地などの、執務の仕事をやる羽目になっていた。  だが右も左も分からない、子供に領地経営なんてできない。いまの今までお父様についていた執事のユッカ、メイド長リリーヌ夫妻、料理長でなんとか、乗り切ってきたようだ。  今、弟の身の回りをしてくれるメイドが、ユッカとリリーヌの子供。 「……ギリシアン、大変だったねぇ」 「えぇ、ユッカとリリーヌ、ララ、ソルア料理長のお陰です。じゃなくて、昨夜の舞踏会はヒーラギお姉様の聖女十周年を祝うための、舞踏会ではなかったのですか?」 「…………モグモグ」  何も言わずパンケーキを口に運ぶ、私に弟はもう一度「婚約破棄は本当ですか?」と聞き、反対側のテーブルに着き、メイドのララを呼び朝食を頼んだ。  でも良かった……婚約破棄なんて知ったら煩い両親がいない。あの二人にバレると面倒そうだから、婚約破棄の話が彼らの耳に入る前、私は消えてしまおうと思っていた。 「……ヒーラギ姉さん?」  ローザン王太子殿下と私の婚約破棄は本当の話だし、弟に現状を話してもいいか。バターをこれでもかと塗り、蜂蜜をたっぷりパンケーキにかけた。  ――ああ、おいしい。 「ふう~」 「姉さん!」 「……ギリジアン、婚約破棄は本当よ。ローゼン王太子殿下は異世界から来た、新聖女アリカと結婚するのですって。昨夜、国王陛下と王妃、周りの重役の貴族達、騎士団長、副団長もアリカが新聖女だと、昨夜の舞踏会で認めたわ」  ギリジアンは食事の手を止めて、眉をひそめた。どうやら、私のことを心配してくれているようだ。  心配しなくても平気……王太子殿下との婚約破棄の話は、噂好きのメイド達が話しているのを聞いて知っていた。  でも問題はその後だった。  国土を覆うほどの結界を張れる、聖女の力がアリカになかった場合。見目の良いアリカはそのまま聖女を名乗らせて、裏で私をこき使うという恐ろしい計画を聞いてしまった。 (ヒィ⁉︎ このままだと私は国に飼い殺される)  逃げるなら婚約破棄される舞踏会の日だと決めて、荷物をせっせとまとめて、婚約破棄の後すぐ王都を出てきたのだ。 「ヒーラギお姉様、お辛いでしょう……なんて言ったらいいのか分かりませんが……元気を出してください」 「ありがとう。でも、心配しなくても大丈夫よ。まぁ、王城の書庫に通えなくなるのは少し寂しけど、好きでもない人と結婚しなくていいのだし。毎日、祭壇でお祈りをしなく良くなったのよ。ようやく肩の荷が降りたわ」 「そうですか……それはよかったのですが。これから、どうするのですか? この屋敷に残るのですか?」 「屋敷には残らないわ。それに行き先はもう決めてあるの」   「え?」 「ギリシアンは覚えているかしら? 国境近辺にウチが保有する、別邸があったわよね。そこで本を書いたり読んだり、困った人を助けて美味しい物をたらふく食べて、ゆっくりしようと思っているの」 「そこには、いつ出発するんですか?」 「今よ、いまから出て行くわ。料理長、パンケーキごちそうさま!」  パンケーキを全て平らげて、私はトランクケースを握った。これから、なにを自由に食べてもローザン殿下に口うるさく言われない。  殿下は私に関心がなさ過ぎて知らないでしょうが、魔力は使えば使うほどお腹が空くのって、あの方に何度言っても、信じてくれなかったなぁ。  だかと、元々ローザン殿下の事は好きじゃなかったから、せいぜいする。   「そうだ、ギリシアン。国から昔、私が使っていた口座に、慰謝料の入金があると思うわ。それを使って領地経営を……ユッカとリリーヌ、ララ、料理長とでやってね、ごきげんよう!」  私は革製のトランクケースを手に持ち食堂を手で行こうとする、私にギリジアンは声をかけた。 「ヒーラギお姉様、お気を付けて」   「えぇ、あなたもたまには休みなさい。……体には気をつけるのよ。生活が落ち着いたら手紙を書くわね」  笑顔で弟に手を振り、伯爵家を後にした。
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