4話

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 今思えば、当時の私は真面目すぎたかも。  朝の祈りのあと書庫で本を読み、昼の祈り、そして書庫、夜の祈りの時間――こんな毎日を王城の離れで過ごしていた。  しかし、まわりが聖女の力を誉めてくれたのは初めだけ、何年も続けば人々は慣れてしまい、傷を癒すのでさえ当たり前になっていった。 『お疲れ様でした。聖女様、次の祈りの時間までお寛ぎくださいませ』  最初はご機嫌取りなのか……庭園で開かれるお茶会、食事会に呼ばれていたけど、時期に誘われなくなった。それは私が文句をひとつも言わず、言われた事を従順に従ったからだろう。  お祈りも慣れてくると苦痛じゃなくなった。  聖女の力で国土に張られた、結界を補強するだけでよかった。    だが……魔物の動きが活発になり、瘴気が森に充満してくる。 『そうだ、お前の聖女の力を騎士団達にも使ってやれ』  瘴気を祓うためローザン――ポンコツ殿下の命令で、騎士達の遠征に着いて行くことになる。  遠征に出向き、魔物と戦い傷付いた、騎士のキズを聖女の力で癒した。  切り傷、引っ掻き傷、骨折、一番難しいのは手と足の再生だ。書物で体の仕組みを理解して、立体に想像しながら、癒やさないと簡単に再生できない。  私は書庫で体の仕組みの書物を読み、ポンコツに気持ち悪いと言われながらも。手帳に絵を描き、体の仕組みを頭にたたき込んだ。  魔法に至ってもヒールのほか、広域回復魔法、聖魔法……覚え出したらキリがないし、魔力も足りない。魔力が足らないのなら回復すればいいと。回復薬にも関心を持ち、魔術師に錬金術を学びポーション作りにも参加した。  森に生えている薬草だけで、回復薬が作れるとも知った。やれる事は全てやり、知ったこと、覚えたことは全て手帳に書き留めた。 『いくらでも、娘をお使いください』 『そのお礼はいかほどで?』  両親は跡取りの弟もいるからかと、お金さえ貰えれば何も言わない。そして15歳――成人をむかえた時、私の知らないところで国王陛下と両親は制約が交わして、私はローザン殿下の婚約者になっていた。  ――あんなにも、ローザン殿下には嫌われているのに。  初めは――こちらから歩み寄ろうと開いたお茶会でも、舞踏会のエスコートでさえ一言も話さず、目も合わない……口を開けば冷たい言葉、暴言ばかり、そんな人を私も好きになれなかった。 『また、騎士団の遠征について行けと言うのですか? ローザン殿下はどうなさるのですか?』 『僕は私用があってな。君は聖女だ一人でも多くの人を助けたいだろう? 気を付けて行って来るがいい』  十六歳になり私は知ったのだ。  騎士達が命をかけて魔物と戦うなか。王子は他の令嬢を招待して茶会を開き、のほほんと王城で待っていたことを……。  そして私を毎回遠征に行かせる彼の魂胆も……ローザン殿下は遠征で、私が魔物に襲われ怪我をすればいいと思っていたと、彼の専属のメイド達の世間話から知った。  遠征から騎士達と無事に王城に戻り、宴の舞踏会で私が陛下、王妃、貴族達に賛辞を述べられると嫉妬して睨みつけていたものね。  決まってローザン殿下は『断じて、お前の力のおかげではない!』と、私に言い放った。  私が聖女の力で活躍すればするほど、ローザン殿下は私に意地悪をした。例えば舞踏会でダンス中に足を引っ掛ける、庭園で散歩途中に突き飛ばされる、遊びだと言って笑いながら真剣を向けられたこともあった。  逃げたくても逃げられない、そんな時にアリカが異世界からこの国にやって来た――彼女は私とは違う可憐な乙女。殿下はすぐ綺麗な黒髪の可憐な、アリカに夢中になった。 『聖女アリカにも、ヒーラギと同じく癒しの力があった、カザール国に聖女は二人もいらぬ』 『ヒーラギさん、あとは本物の聖女のあたしがやるから。あなたは出ていってもいいし。どうしてもと言うのなら、ここに残ってもいいわ』 『結構です。後のことはホンモノの聖女様にお任せいたします』  聖女としての役目は終わった……こんな場所から出ていける。少しずつ荷物をまとめて、書庫で必要な本を借りメモにとり、着々と出立の準備を始めた。  新聖女としての、アカリのお披露目の舞踏会。  ローザン殿下に『お前とは婚約破棄だ!』と言われたとき、余りの嬉しさに小躍りしそうだった。  だけど、これは表向きの発表で。その裏ではまだ利用価値があるとして。私をどうにか引き止めようとする、力が動き始めている事を知っていた。 (ヤツらに捕まりたくない)  私は婚約破棄の後に黒のレースで顔を隠し、準備していた荷物を持って、城から姿を消したのだった。
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