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5話
伯爵家を出て別邸に向かう私は、行商帰りのおじさんが操縦する、荷馬車の御者席に乗せてもらいゆったり畑道を移動していた。ちなみに持ってきたトランクケースはおじさんのご好意で、荷台に乗ってせもらっている。
どうして、こうなったのかは遡ること数時間前。屋敷を出てトランクケースを手に持ち、畑道を歩いていた。
「お、ツユユクサ見つけ」
この薬草って解熱とか下痢止めになるのよね。こっちのオバコは腫れ物に効くのよ。ラッキー、と道草を食いながらのんびり進んでいた私の目の前に道端で、荷馬車を止めて唸るおじさんを見つけた。
私は何事かと駆け寄り話しかけた。
「どうかされました?」
「ん? あぁ家に戻る途中で腰をやっちまってね、痛みが引くのを待っているんだ」
イテテと、顔をしかめて痛そうなおじさん。
私は見捨てることができず辺りを見渡したあと、おじさんに再度、話しかけた。
「よろしければ、私が治療しましょうか?」
「治療? お嬢さんにそんなことができるのかい?」
「はい最近まで、王都で治療師をやっておりました」
「治療師? ……そ、それじゃ、頼むよ」
(ふぅ、どうやら私が元聖女だと、おじさんには気付かれいないみたい)
多分あれでかな?
つねに聖女パレードのとき殿下に顔が貧相だと言われて、毎回黒いベールで顔を隠していた。だけど、後々のことを考えて治療師だと、おじさんに伝えた。
「今から、腰を治しますね【ヒール】」
私はおじさんの腰に手を当てて、回復魔法を使い腰を治した。すぐに痛みがひき、動けるようになったおじさんは喜び。お礼だと言っておじさんが住むアース村まで、荷馬車に乗せてもらえることになったのだ。
「ほんと、助かります」
「いいや、お礼を言うのはオラの方だよ、ありがとう。お礼と言っちゃなんだが……母ちゃんが朝飯にと握ってくれたオニギリ食うかい?」
「おにぎり?」
首を傾げた私に。
「なんだ、嬢ちゃんはオニギリを知らないのか? 王都ではまだ、コメは食べられていないのか……うまいのにな」
おじさんにコメというものを炊いて、握ったオニギリを貰った。
「いただきます」
王都の外ではコメかパン、麺類以外の主食らしい。
知らなかった――聖女は慎ましくと言われて、食事は固いパンと、少しの野菜入りの味の薄いスープだけだった。
「オニギリ、美味しい」
おじさんに貰った、このコメは噛めば噛むほど、甘くモチモチしていた。ん? おにぎりの中から出てきた赤いものはなに? ――すっ、酸っぱいけど、この酸っぱさが美味しい。
こっちはしょっぱいお魚?
この茶色いものは噛めば噛むほど、味がでて美味い。
「ハハハッ、無我夢中でオニギリを食べているな。そんなに美味いか?」
「はい、とても美味しいです。このオニギリの中からでてきた赤い食べ物は何ですか? あとしょっぱいお魚と、茶色い物も」
「ああ、それはな東の大陸で採れた、梅を漬けた梅干しで。魚はシャケの塩漬けを焼いたもの。鰹節を醤油で和えたおかかのオニギリだな」
「梅干し、シャケ、おかか……初めて聞くものばかり。どれも美味しくて、おじさんのオニギリを3つも食べてしまいました」
おじさんは笑って『いいよ』と言ってくれたけど。
何かな足しになればと持ってきた、殿下から貰った悪趣味なアクセサリーをお礼に渡した。おじさんは初め高そうだからと驚いていたけど「母ちゃんへのプレゼントにする」と言って受け取ってくれた。
困ったときに、売ってもお金になるからいいだろう。
「お嬢さん、ここがアーク村で、これがオラんちだ。ちょっと待っていてくれ」
おじさんは荷馬車を降りると、外に私をまたせて家に入っていき。次に来る時には手に大きな肩掛け鞄を持っていた。
「これ母ちゃんからのお礼だ、このまま持っていってくれ」
中を覗くとお肉、野菜などが入っている。
「こんなに沢山の食べ物と鞄まで貰っていいんでか? ……あのお礼に私ができる事ないですか? 治療しかできませんが」
「うーん、それなら村のみんなにも声かけてくる」
おじさんの声掛けで集まった村の人達を。私が癒せば癒すほどお礼にとお野菜、パン、おにぎり、果物を貰い。革製の肩掛けカバンの中身は、治療が終わる頃に食べ物でパンパンに膨らんだ。
「たくさんの食べ物、ありがとうございました」
「こちらこそ、村のみんなの怪我を治療してくれてありがとう、気を付けて行くんだぞ」
「はい、ありがとうございました」
お礼を言って村を後にした。
村のみんなのお礼の品で荷物は増えたけど平気だ……騎士団の遠征について回っていたから体力には自信がある。
誰も荷物を運ぶ手伝いをしてくれず、回復薬、薬などの荷物は自分で運んでいた。
村を出て国境付近の別邸まで、貰ったパンにチーズを挟み食べながら。王都の外はこんなにも綺麗なんだと、忘れかけていた景色を眺めてのんびり歩いていた。
あれが、おじさんが言っていたコメが採れる田んぼかな? とよそ見をしていた私はムニッと足元に落ちていた、白いふんわりした物を踏んだ。
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