6話

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6話

 私にムニッと踏まれた白いフワフワは『キュウン』と力なく鳴いた。 「……ひゃっ、え、だ、大丈夫?」 「キューン」  私が踏んでしまった白いフワフワは――子犬。その子はお腹に怪我をしていて苦しげに息をしていた。犬同士の争いに負けたのか、はたまた猫にでも負けたのかな。    この子のキズを治そうとして触ろうとした私に、子犬は唸り声をあげて威嚇した。だけど、この道はいつ馬車、荷馬車が通るわからない畑道だ。 「お願い、私にあなたの怪我を直させて」 「キュー、キュー」  やめろと言わんばかりに触れば嫌がり、暴れる小さなモコモコを無理やり抱き上げて、道外れの木陰で聖女の癒しの力を使いお腹のキズを治す。 「キュ?」 「大丈夫だよ。直ぐに、君のケガはよくなるからね」  でも、この子のお腹のキズは鋭い爪のようなもので引き裂かれていて、キズを治すときかすかに瘴気を感じた。  騎士団でも、魔物のキズを直すときに感じたことがある……この子は犬や猫ではなく魔物に襲われたんだ。 「うそ?」  カザール国の結界が薄れてしまった? 私は空を見上げ結界を確認したけど、結界がまだ薄れた気配はなかった。 (よかった……新聖女のアリカが祭壇で、祈りを捧げたのね)   「キュ?」 「キズは治したから、動いても大丈夫よ」  ケガが治った子犬はクリクリな瞳で、キュンと可愛く鳴いた。 「他に痛い場所ない?」   「キュン」   「ないのか、よかった。お腹すいていない? チーズを挟んだパンを食べる? 私の食べかけだけど……」   「キュン、キュン」  食べると鳴いたのでパンをちぎって渡すと、美味しそうにかぶりつき、よほどお腹が空いていたのか子犬は一瞬でパンを平らげた。  ――おお、この食べっぷりは私と同じ食いしん坊かもしれない。食いしん坊仲間の発見に喜んでいたら、子犬は残りのパンにもかぶりついた。 「あ! 君もよく食べるね。私にも少しちょうだい」   「キュン」  残りのパンは半分こにして、仲良く食べてしまい。次におじさんに貰った桃をカバンから取り出して、携帯ナイフで小さく切って渡すと、子犬は美味しそうに食べてくれた。 「桃、美味しい?」 「う、美味い、もっとくれ!」   「いいよ、って、え? ……ええ⁉︎」   (この子、人の言葉を話した?)  人と同じ言葉を話した……もしかすると、この子は精霊か魔物かもしれないけど、この子に帰る家がなかったら私の話し相手に連れて行きたい。その為に、この貰った桃をたらふく食べさせて……と、思ったのだけど、この子よく食べる。  子犬用にと剥いた桃が足りなかったみたいで、私の桃も欲しがった。 「ダメ、これは私の桃です!」 「いいや、俺のだ」  食いしん坊同士の取り合いの末、一口残った桃を食べようとした私に飛びついた子犬の口と、私の口がチュッとくっ付いた。 「きゃっ!」初めてを子犬に奪われた……だが、子犬は焦る私の口元をペロッと舐めた。 「お前の唇、桃のように甘いし、なぜだかわかないが俺の魔力が回復する」   「魔力が回復? って、こら! 私の口を舐めないで、離れて!」  と、出した手もペロッと舐めて、子犬は徐々に大きくなり……150くらいの私よりも身長が高く、短い白銀の髪と琥珀色の瞳の男性に変わった。  そして、人型になった彼は自分のお腹をペタペタ触り、声を上げる。 「スゲェ、魔物に受けた傷がどこにもない、傷痕もなしに綺麗に治っている」 「こ、こ、子犬が、人の姿になった……?」  この子は精霊でも、魔族でもなく獣人?    そう言えば書庫の書物で魔族国の他に、カザール国の隣国には狼が収める、獣人の国があると本で読んだことがある。だけど彼らは人間を嫌い、憎み国境は開いていないから図鑑でしか見たことがなかった。  彼のフワフワな耳と、フンワリな尻尾……可愛いけど、この人は裸だ、全裸だ!  私は彼の裸を見ないように後ろに向いた。……でも私は成人男性の裸は騎士団で慣れてる。騎士の彼らは全然気にせず、天幕を張ったキャンプ地で鎧を脱ぎ裸で歩く。  最初は子供だった私が大人になっても、彼らは同じだった。 「そこの女! 俺の腹のキズをどうやって治した?」   「どうやったって……普通に治療しましたけど……」 「嘘つけ! あれは魔物に受けた瘴気を纏ったキズだ……普通の癒しでは治らない!」    しまった……彼に私が、聖女だったことがバレてた? 私は彼に捕まって、王城に連れていかれて閉じ込められる。そして、騎士団の遠征に着いて行けと言われて、ケガを治せと言われる?  どれだけ祈っても、キズを治しても……周りは。  お前は聖女なのだから当たり前だと言ったし、私は文句を1つも言わずに今までやってきた。    新しい聖女が来て……私の力は要らないと言われて、私の役目は終わった。やっと外に出られて自由にもなれた。  なにをしてもいいし、好きな物だって食べてもいい。 「…………」 「お前、顔色が悪いが平気か?」   「いや、近寄らないでぇ、私は絶対に王城なんかに戻らない!」 「ハァ? 王城? ち、違う! 俺はお前を捕まえにきたんじゃない、お前の力を借りたいんだ……お前は聖女なんだろう?」  裸の男は私にそう言った。
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