8話

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8話

「祈りを終えると、その女性は王城から馬車に乗り去っていった。あとを追いたかったが肝心なときに、腹のキズが開き動けなかった」  と、腹をさする彼はキズを治すだけで、瘴気を払う力が残っていなかった。私を闇雲に探して、道端で力尽きた……無謀すぎる。 「あなたは私が見つからなかったら、どうしていたの?」  その問いに彼はあっけらかんと、笑って答えた。 「ん、わかんねぇ。でも俺はこうして聖女に会えた、運がよかった」 「運が良かったって……」 「だってそうだろう? 俺の腹のキズが治って聖女には会えた……いやぁヒーラギが人々を思いやれる聖女でよかったよ」  ――え? 「わ、私が人々を思いやれる聖女? 王城から、役目を放り出してきたのに?」 「役目を放りだしてか……クックク。ヒーラギ、ここに来るまで荷馬車にも乗ったが、ゆっくり徒歩で移動していただろ?」 「え?」 (どうしてそれを知っている? もしかして、彼は私をずっと見ていた?) 「そ、そんなの、た、たまたまよ……たまたま移動手段がなかっただけよ」 「嘘だな、魔力を持つ俺にはわかる。ヒーラギの先回りをしようとして、ここで倒れて動けなくなった俺は温かな魔力を感じた。土地の浄化と作物の実りを願う、温かな魔力が移動してるってな」  温かな魔力? そんな大したものじゃない。 「違う! 私は自分が悪者になりたくないだけ、私が祈りを止めたせいで……この土地が枯れたって言われたくない。王族、上級貴族たちはどうなってもいいけど……誰だって、悪者になりたくないじゃない」 「ケッ、なるわけないだろう! ヒーラギはこの国に何年も祈りを捧げ、人々を癒し、キズを治してきた。ポッとでの異世界人のアリカを、次の聖女だと王族、聖職者、騎士団が決めたんだろ!」  うっ、 「そうだけど……」 「自分の国の人々に何があったら、ヒーラギのせいではなく、そうした王族たちのせいた。聖女という、肩書きがなくなったヒーラギはいち市民だ。もうお前は王族に守られる立場だ、お前が一人で心配して体を張らなくていいんだよ」  そう言った彼の言葉が心に響く。  私はずっと聖女の役割から逃げたいと思っていた『でも、私がいま祈りをやめたら?』と思うだけで怖かった。  聖女でなくなった私は国王陛下、王妃、王子が決めた、聖女アリカ様に役目を任せていいんだ。 「そっか、私はいち市民……アリカ様に任せていいのね」 「そうだ、あっちにはあちらが決めた、聖女アリカがいる。その聖女に任せればいい……ヒーラギには俺の国を助けて欲しいけど」  私は聖女ではなくなったけど、力までは失っていない。私の力を必要としてくれる、彼の国に行って、彼の国の人々を助けたい。 「わかった、あなたの国に行くわ。その前にあなたの名前を教えて」 「あ、そういや俺の自己紹介してなかったな。俺はゴルバック国の第三王子ブラン・ゴルバックだ。ブランと呼んでくれ」  ゴルバック国の第三王子……やはり、この人は王族なんだ。 「ブラン様、私の力がどれくらい……お役に立てるかわかりませんが。よろしくお願いします」  スカートを摘んで、彼にカテーシーをした。  それを見たブランは口を尖らせて、モフモフな尻尾をブンブン振った。 「ヒーラギはかたっ苦しいな……様はいらない、ブランでいいよ。それも呼び捨てじゃないと、俺は返事しねぇ。さて行くか」 「はい、ブラン」  と、返事したのだけど「キュルルルル」と私のお腹が盛大に鳴った。  
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