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「いい場所と言っても遊びに行く訳じゃないでしょ?那智くんはそこで何をするの?」
おばさんはイラつく姉と母を窘めるように小さく手をヒラヒラさせながら那智に聞いた。
「ホテルで男性の着付けをするんだ。富士山が見える同系列のホテルと旅館を4館展開している会社でね。ホテルって男性の和装の着付けも女性が担当するところが多いらしいけれど、新しい試みだと聞いてる」
「そんなの、ちゃんとお給料貰えるの?」
「ショコ、そんなのって何?普通の最低限の給料は貰えるよ。それに、僕は外に出て働くのが初めてだから、これを機会にもっと他のことにも目が向くかもしれないと考えている」
「なるほど…那智は今、自分が持っている知識と技能を活かした仕事をしながら、さらに人生の幅の広げる方法を模索するってことだな?」
「その通りだよ、翔くん。リゾートホテル業務に目が向くかもしれないし、外国人客誘致に燃えるかもしれないし、自分が外国へ行くかもしれないし…選択肢は無限だと思うんだ。野田屋は僕が居なくても…って考えたら、選択肢が無限になった。だから‘そんなの’って言われようがこれはただの最初の一歩だよ」
私に言われた訳ではないが思わず大きく頷くと、翔貴が私の頭をグリグリと撫でながら
「那智、いい大人になったな」
と優しく微笑む。私を挟んでいるから那智の頭が撫でられないのか…那智の代わりに撫でられておくね。何故か向かいの雅貴くんと姉からの視線は厳しさを増したけれど、いいや。
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