episode 10ヶ月前

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「結婚を認めるにしても、今すぐなんてあり得ないわね。雅貴くんと笙子の結婚式が10ヶ月後なんだもの」 母の言葉にスーっと驚きは引っ込んでしまい、当然その視点だよね…と納得する。 「あり得ないと言うのがあり得ない。誰の結婚の時期に左右されることもなく、俺も茶子も自由に結婚出来る年齢ですよ?」 自由に結婚出来る…そうか…当たり前のことなんだけれど、スペアの私に決定権はなかったから全く消滅していた意識だ。 「結婚とはパートナー同士の合意のもと、役所へ届け出を行い成立する行為です。婚姻届を出すと、これまでの戸籍から除籍して二人だけの新しい戸籍を作ることになる。完全な自立、独立をして茶子と生きていきます」 「翔くん、チャコを自由な世界に連れ出して…いろんな物…好きなことをさせてあげて欲しい」 「那智、約束するよ」 そう言った翔貴はぎゅうっと手を握り直した。わかった…わかったからちょっと手を緩めて…と、指先をピクピクさせると翔貴が少し力を緩めて、親指で私の手の甲を撫でる。そうそう…そうやって指先まで血液を行き渡らせないとダメだよ。 「翔貴の気持ちはわかった。少し順番に聞かせてもらうよ?」 「どうぞ、父さんから?」 「ああ。私は茶子ちゃんがいいと言ってくれるのなら結婚自体に反対しないが、翔貴が自信たっぷりにビジネスだとか、いろいろ整えたと言うのはどういうことだろう?帰国したばかりで今すぐに完全な独立生活、結婚生活が送れるのかが疑問だ」 おじさんは穏やかな調子のままそう言うと、まるで‘茶子ちゃんもそこは気になるだろう?’と言うように私に向かって僅かに微笑んだ。
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