6854人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
昼の長い会食を終えて、野田家へ立ち寄る。那智の印をもらったり、茶子の貴重品と絶対に毎日必要だという物、そして1泊分の荷物だけを小さなキャリーバッグに用意してもらった。
「早いね、茶子。大丈夫?時間はあるよ?」
「うん…翔貴が1泊分って言った通りにしか用意してないから…本当にいいの?ちゃんと通帳とカードは持った。翔貴からすれば桁違いの少なさだろうけど…6桁しかないけど貯金してたから…」
大学卒業前に、働かなくていい、もしくは働くなら野田屋でと言われた茶子は、就職をしなかった。野田屋は嫌だったのだろう。母親に言われるままに笙子と同じ料理教室へ通ったりして1年近く経つと、単発のアルバイトをするようになる。医学会や国際会議など大規模なコンベンション運営をする会社へスタッフ登録をして仕事を受けるようになったのだ。
参加者受付からクローク、資料配布、誘導、会場アナウンスなどをすると聞いている仕事は今も続けている。4日間の学会プラス研修があるというパターンが多く、東京や横浜で月に二度ほど仕事を受けているから月の半分は働き、そのバイト代を貯めていたのだろう。
「茶子が頑張って貯めたものだ。いくらだってかまわない。大事に持っておいで。俺の収入などもちゃんと茶子には話すからな」
「…生活出来れば大丈夫…私ももっと働けるし…」
「そういう話もこれから二人でゆっくりと時間をかけてしていこう。二人でたくさん話をして、何でも二人で決めたらいいと思うんだ」
小さく頷いた茶子の髪を一束指先で掬うとそっと口づける。
「茶子は自由だ…永遠に」
最初のコメントを投稿しよう!