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「まず、盛り塩を置いた時点で怪しいと思ったよ。あんなの逆に怖がらせにいっているじゃないか。僕には、演出しているようにしか見えなかったよ」
立ち上がり、僕はメガネを正す。
「それから、図書室で勉強しているっていうのも、すぐに嘘だと分かったね。毎日じゃないけど、あそこはよく使うから。最近一人ぼっちになってしまっていた合葉さんも。あそこにいる人たちは、大体いつも同じだよ。一応合葉さんにも聞いたけれど、やっぱり図書室で舞木さんの姿なんて見たことがなかった」
「………。」
「そもそも、舞木さんからこの話を持ちかけてくる時点で、怪しいよね。憑き物探偵だなんて、普通信じるかな? あの怖がりな先生を呼んだのも……もしかして計算だった?」
「……計算? なんの話かしら」
「だって、まるで僕が憑き物の話をしやすいように、場を整えてくれているみたいだったから。あと、僕が小豆洗いの話を始めたとき、舞木さんはすぐに疑いにかかったよね。憑き物探偵だとかを信じて相談してきたのは、舞木さんなのに。そこで僕は確信した。舞木さんは、僕の話にリアリティを求めている。そうか、最初から僕を利用するつもりだったのか、と」
黙って聞く舞木さんに、僕はニヤリとして言ってやる。
「つまり、盛り塩を置いたのも、半年前から自分も変な音を聞いていた、と嘘を吐き、僕に相談したのも全て――楽器庫に妖怪がいることにしたかったから」
違う? なんて、聞くまでもなかった。
舞木さんはすでに後ろを向き、大きな紙をせっせと紙袋に詰め込んでいる。おそらく漫画の原稿用紙だろう。……今更、隠そうとしても遅いのに。
「だから、合葉さんが他学年にも聞き取り調査をすると言ったとき、焦って止めようとしてたんだよね」
「……どうして、ここで漫画を書いていることまで分かったの?」
「それは、今から順に説明していくよ。あと、なんで僕がただの嘘吐きだってバレたのかな?」
そうそう。もし僕が本物の探偵だと信じられていのなら、最初から相談しようなんてなる筈がないからね。だって、犯人は自分だもの。
「小三のとき、フィールドワークで鬼除川の由来を調べたことがあったのよ。鬼を除ける川、ってそのまんまなんだぁって思ったのを覚えてる。だから、鬼が除けるようにと願われた川、なんて話したあんたが嘘吐きだってのは、すぐに分かったわ」
ユリが知らなくて良かったわね、と舞木さんは言う。上からの笑みが癪に障る。
「なるほどね。……にしても、どうやってこの楽器庫を使ってるのかな? 職員室に鍵を取りに行ったりしていないよね?」
「そんなの簡単よ。廊下側の扉が、百円玉で開けられるのよ」
「えっ……」
「この学校の扉で開けられるのは、楽器庫しかなかったわ。他にも色々と空き教室を見たりして、やっと見つけたの」
「…………そう、なんだ。よくやるね」
顔を引きつらせる僕に、舞木さんはドヤ顔をしてくる。……合葉さん、この子全然真面目じゃないよ。
いや、そうまでして、どうしても漫画を描きたかったのか。
「でも、楽器庫だと先生が入ってきたりしない?」
「……時々あるわね。まぁ、ドアの鍵を開ける音がしたら、急いで片付けて適当な物陰に隠れるだけよ」
「……いや、すごっ……」
確かに物がいっぱいあるから、隠れんぼには有利そうだけれども。
いつでも片付けられるようにと、最小限の道具だけを出して書いていたんだとか。
「それでもここは便利な場所よ。中から、廊下側と音楽室側のドアを閉めれば、完全に一人きりの空間。廊下は人通りが少ないし、音楽室は基本的に授業中以外は使用禁止だし、誰かが入ってくることもない。ここが唯一――私の趣味を楽しめる場所だったの」
――趣味?
おいおい、それはさすがに冗談だろう……。
「そこまで必死になって描くなんて、本気で目指してるんだろう?」
「漫画家? なれるわけないじゃない、私が」
舞木さんは低い声で笑う。
「あのねぇ……。そんなに自分の絵に自信があったら、とっくに教室とかで皆に見せびらかしながら書いてるわよ。……それか、兄弟達がうるさくて、自分の部屋もない家で堂々と、ね」
悲しそうな目で床をみつめる舞木さん。
「……じゃあ、どうして、放課後も合唱団の練習をサボってまで、ここで描くようになったのかな? コンクールも近いんだろう?」
「…………えっ。どうして、」
「合葉さんに頼んで、他クラスにいる合唱団の子に聞いてもらったんだ。舞木さんが練習に参加しなくなったのは、最近らしいね」
それに、最近は音楽発表会の練習で、昼休みに音楽室が使われていたから……バレる確率が高かった筈だ。だからこうして、僕を利用してまで妖怪になる羽目になったのに。
そうだ。ずっと、そこが引っかかっていたんだ。
楽器庫にいるのが舞木さんだとは、すぐに分かった。けど、そこでなにをしているのか?
少女漫画を妹のために買っていると話されたとき、なんだかやけに焦っていたから、普通に自分が買っているだけなんじゃないかとは予想がついた。けど、わざわざ少女漫画を楽器庫に隠れてまで読むか? それも、なぜ最近になって隠れる頻度が上がったのか――。
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