第二章:音楽室の小豆洗い

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「螢川ぁ~……」 「――だから、合葉さんにもこの夢を打ち明けよう!」 「ん?」 「合葉さんにも、協力してもらうんだよ。ここにある漫画用具を全部合葉さん家に持っていって、合葉さんの部屋で描かせてもらうんだ。どうせ、こんなところで作業なんかしてたら、いつかはバレるだろうし」 「ちょ、ちょっと待ってよ……。なんで、ユリに……?」  戸惑う舞木さんに、僕は自信たっぷりの笑みを向けてやる。 「合葉さんは、人の夢を笑ったりしないから」  すると、舞木さんは呆れたような目つきでこちらをじとーっと見つめてくる。 「あんたさ……私にユリと仲良くして欲しいだけでしょ?」 「その通りだ」 「このことをバラされたくなかったら、その条件をのめと?」 「まぁ、そういうことだな」  舞木さんは天井を見た。  なんだこの状況……、とでも言いたげな表情で。 「今日はここに来て、すごく安心したんだよ、舞木さん。こんな真剣に一生懸命追いかけている夢なら、合葉さんが協力しない筈がないからね」 「……あんたに、ユリのなにが分かるっていうのよ……」 「分からない。けど、合葉さんはそういう、夢中になれるものをもっている人が好きなんだな、ってことは分かる」 「へぇ……。あんたとか?」 「そうだね」僕はすぐに付け加える。「ただ、僕はあくまで憑き物探偵という妙な存在だから、ちょっと興味を持たれてるってだけで……僕の望む好きとは、全然違う方向だけどね」  ふーん。と、舞木さんは僕の顔を見てから、くくくくくっ、と笑い出す。それから「そっか、そうなんだ。それでこんなことを……」と何度も肩を震わせた。 「あんたって、本当にユリのことしか考えてないのね」 「……なんだよ。別に、舞木さんにとっても悪い話じゃないだろう?」 「いや、そうなんだけど。そうじゃなくって……」  しばらく笑い続けた後、舞木さんはハァーッとため息を吐くと、急に冷めた目を僕に向ける。 「遠回り過ぎるわ、アプローチが」 「へぇっ!?」 「憑き物探偵とか言ってないで、さくっと『好きだ!』って言えば終わる話じゃない」 「いや、はっ……!? 別に、僕はただ、こうして陰で合葉さんの役に立てれば……って、終わるってなんだよ! 告白して気まずくなるくらいなら、今の関係のままでいい!」 「この意気地無し! なんでもっと良い方向に考えられないのよ!」 「なんだよ、じ、じゃあ、この僕のことを合葉さんも好きだとか言うつもりか!?」 「その可能性だって十分にあるでしょ?」  はっ、と僕はそれこそ冷めた目線をやる。 「少女漫画の書きすぎで、頭がお花畑になっ――いててててて」  案の定、首をしめられた。 「イケメンだからって、なにを言っても許されると思ったら大間違いよ」 「へっ……? イケメン? 誰の話を……って、痛い痛いギブギブ」  ごめんなさいぃ、と心から反省して言うと、舞木さんはゆるやかに僕を解放してくれる。 「……まぁ、あんたの言い分はわかったわ。とりあえず、ユリに話してみるけど……そんな、部屋で漫画を描かせてくれなんて言われても、ねぇ。断られたらどうするの?」 「そのときは……。うーん、仕方ないから僕の部屋でも」 「全力でお断りするわ」  舞木さんはニッコリとし、紙袋を手渡してくる。  一緒に運ぶよね? という圧を感じた。
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