第二章:音楽室の小豆洗い

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「コトカ、やっぱり凄く絵が上手いね~」  日曜日の昼下がり。  今日は、コトカが小学生以来、はじめて私の部屋に遊びに来てくれたんだ。 「そうかな……」 「うん! もっと自信持った方がいいよ――あっ! どうしよう! ベタ塗りしてたとこ、ちょっとはみ出しちゃった……」 「あぁ、平気平気。ホワイト使えばいいから」  言って、コトカは白い液体を筆につけ、慣れた手つきで直してくれる。  ふふふっ。と、思わず声に出して微笑んでしまった。 「……なに、によによしてんのよ」 「いやぁ、なんか、凄く嬉しいなぁって。こうやって、真剣なコトカを見れるのも、直接夢のお手伝いが出来るのも。私にだけ打ち明けてくれたんだから、しっかりと役に立たないとね! なんかわくわくしてしきちゃったっ!」  すると、コトカは、今まで見たことのないほど柔らかく頬をゆるめた。 「本当に……螢川の言う通りだったわ」 「んん? なんでそこで螢川くん?」  あっ、マズイ! と、口を手で押さえるコトカ。なんだかワザとらしい気がするのは、気のせいかな? 「いやぁ、ね? ほらぁ、最近、螢川と話す機会があったじゃない?」 「あぁ。この前の、小豆洗いの件で?」 「そうそう。それで、なんかイイなーって思ったの」 「……えっ!? イイなっ!?」 「うん。あれから、パタッと変な音も聞こえなくなって、皆もすっごい感謝してたし。螢川くんさすがぁ~っ! って」  ……そういえば、他の子たちも、優しくてカッコイイ! って言ってたな。螢川くん、喋らなくても人気あるくらいだし……。  でも、コトカは興味ない、って思ってた。  イイ感じ、ってなに……?  もしかして―― 「螢川くんのこと、好きなの?」  なぜか、ニヤリと口角を上げるコトカ。 「どうしてそう思うの?」 「えっ? いや、だって……イイなぁって思ったんでしょ?」 「うん。イイなぁ、って。それだけだけど」  それ、だけ?  途端に、肩が軽くなっていった。 「なぁーんだ。びっくりしたぁー」  安心して胸をなで下ろす。  ……ん? んんん? 安心って……どうして?  螢川くんのことが好きだ、って思っても、全然不思議じゃないよ。  だって、私も。  私も―― 「ぷっくくくく」 「なっ、なによお!」 「顔、赤くなり過ぎだって。本当にユリは分かりやすいなぁ」 「なっ……」  別に、と言いかけたところで、やめた。  もう、これは隠せないよ。  螢川くんの、優しい笑みが、声色が……ずっと頭から離れないの。  気づけば、彼のことを考えて、彼の隣にいたいと願ってる。  そして―― 「私、螢川くんのこと、好きなんだ……」  彼の一番、特別な存在になりたいって、馬鹿みたいに夢見てる。 「これは、朗報だぞ。憑き物探偵よ……」 「へっ?」 「いや、なんでもない」  そうだ! とコトカは急に手をポンと叩く。 「好きなんだったら、デートに誘ってみるのはどう?」 「で、ででデートぉ!? わ、わたくしごときと、あの螢川くんがっ!?」 「…………うん。なんか、あんたたちお似合いだと思うわ」 「へえっ?」  肩を震わせるコトカに、私は小首をかしげるしかなかった。
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