第三章:猫と犬と恋わずらい

1/21
前へ
/60ページ
次へ

第三章:猫と犬と恋わずらい

「あのっ。螢川くんっ……!」  今日も、合葉さんが教室で話しかけてきてくれた。  けど、なぜか顔全体がやけに赤い。 「……合葉さん、熱測った方がいいんじゃないかな? あ、一緒に保健室へ」 「ちっ、ちちち違うの! これは、その……っ、今日、寝坊して走って来たからさ、あははっ! もう、汗だくよ!」  ぎこちなく笑う合葉さん。  寝坊って……。まだ、授業が始まるまで三十分以上もあるけれど。なんなら、今日は僕よりも早く着いていたし。まぁ、熱がないならいいんだけど……。  すると、合葉さんは周りをキョロキョロと見回してから、ぐっと僕に顔を寄せてきた。 「螢川くん……っ。それよりも、」  教室の端っこにいるのに、更に縮こまって囁いてくる。  あのね。  温かい息がかかり、僕の熱も上がっていった。  どきどき――。心臓が破裂しそうだ。 まるで、二人だけの世界になったよう。  なんだ、この雰囲気……。  もしかして……僕、まさか、今から合葉さんに告―― 「憑き物探偵、初の野外調査に出てみないっ!?」  すんっ。  上がりきっていた僕の頬が、一瞬にして下がってしまう。  ええっ、と……。なんだって? 「野外調査?」 「そう! この街に潜んでる憑き物たちを見つけにいくの! ほら、憑き物って、人間だけじゃなくって、動物や植物、単なる物にも憑くんでしょ? ちょっとだけ調べたんだぁ」  嬉しそうに頬を染める合葉さん。可愛い……じゃなくって! 「あ、そう……。うん、いいと思う」  なんか、本当に……僕って、憑き物探偵でしかないんだなぁ。と、改めて妙で酷な現実を叩きつけられた。というか、勝手に期待して思い上がっていただけなんだけども。 「あれっ……。あんまり、行きたくない……?」 「ううん! 是非とも行きましょう」 「ほ、ほんと? 二人っきりでも、いいかな?」 「むしろその方が良いよ」 「わっ、そ、そうだよね! 私が、唯一で一番の螢川くんの助手ですから! えっへん」  ……なんだか今日の合葉さんは、いつもの百割増しで可愛いな。  目と心の保養をしてくれるなんて……天使じゃないか。 「螢川くんっ、聞いてる……!?」 「あ、うん。合葉さんが一番だよ」  なにがとは言わないけどね。……言えないけどね!  くそうっ。歯がゆい。今、人生で初めて意気地無しだと自覚したよ。  合葉さんは、なぜか耳まで真っ赤になっていた。……そんなに、憑き物探偵に認められるのが嬉しいのかな?
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加