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第三章:猫と犬と恋わずらい
「あのっ。螢川くんっ……!」
今日も、合葉さんが教室で話しかけてきてくれた。
けど、なぜか顔全体がやけに赤い。
「……合葉さん、熱測った方がいいんじゃないかな? あ、一緒に保健室へ」
「ちっ、ちちち違うの! これは、その……っ、今日、寝坊して走って来たからさ、あははっ! もう、汗だくよ!」
ぎこちなく笑う合葉さん。
寝坊って……。まだ、授業が始まるまで三十分以上もあるけれど。なんなら、今日は僕よりも早く着いていたし。まぁ、熱がないならいいんだけど……。
すると、合葉さんは周りをキョロキョロと見回してから、ぐっと僕に顔を寄せてきた。
「螢川くん……っ。それよりも、」
教室の端っこにいるのに、更に縮こまって囁いてくる。
あのね。
温かい息がかかり、僕の熱も上がっていった。
どきどき――。心臓が破裂しそうだ。 まるで、二人だけの世界になったよう。
なんだ、この雰囲気……。
もしかして……僕、まさか、今から合葉さんに告――
「憑き物探偵、初の野外調査に出てみないっ!?」
すんっ。
上がりきっていた僕の頬が、一瞬にして下がってしまう。
ええっ、と……。なんだって?
「野外調査?」
「そう! この街に潜んでる憑き物たちを見つけにいくの! ほら、憑き物って、人間だけじゃなくって、動物や植物、単なる物にも憑くんでしょ? ちょっとだけ調べたんだぁ」
嬉しそうに頬を染める合葉さん。可愛い……じゃなくって!
「あ、そう……。うん、いいと思う」
なんか、本当に……僕って、憑き物探偵でしかないんだなぁ。と、改めて妙で酷な現実を叩きつけられた。というか、勝手に期待して思い上がっていただけなんだけども。
「あれっ……。あんまり、行きたくない……?」
「ううん! 是非とも行きましょう」
「ほ、ほんと? 二人っきりでも、いいかな?」
「むしろその方が良いよ」
「わっ、そ、そうだよね! 私が、唯一で一番の螢川くんの助手ですから! えっへん」
……なんだか今日の合葉さんは、いつもの百割増しで可愛いな。
目と心の保養をしてくれるなんて……天使じゃないか。
「螢川くんっ、聞いてる……!?」
「あ、うん。合葉さんが一番だよ」
なにがとは言わないけどね。……言えないけどね!
くそうっ。歯がゆい。今、人生で初めて意気地無しだと自覚したよ。
合葉さんは、なぜか耳まで真っ赤になっていた。……そんなに、憑き物探偵に認められるのが嬉しいのかな?
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