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野外調査ということで、動物や植物に関する憑き物ネタを頭に詰め込んできたけれど……。さぁ、一体どこでどうやって披露しようか?
そんなことを考え、住宅街を歩いていると、どこからかチリリンッと鈴の音がする。
あっ、と合葉さんは足を止めた。
「ミャーちゃん!」
「……ミャーちゃん?」
塀の上から、小ぶりな茶白猫がおりてきた。梅柄の首輪をしている。
合葉さんが屈み、「おいで~」と手を差し出すと、猫はニャーと鳴きながら合葉さんの足元にすりすりと頭を擦り付け、ごろんっと腹を見せて地面に寝転がった。
「ふふふ、いい子いい子」
……へぇ。こんな猫もいるんだなぁ。街中で見かけてもすぐ逃げられるイメージだったから、珍しい。僕も合葉さんと一緒になでてやると、猫はごろごろと喉を鳴らし、気持ち良さそうに目を細める。
「可愛いな、この猫」
「でしょ? この子は人語もわかるんだよ~。ね? ミャーちゃん」
にゃあっ! と猫は元気よく返事をする。
合葉さんは、もう可愛いんだから! と更に猫をなで回す。猫は、全く逃げる気配がないどころか、合葉さんの手にこれでもかと顔や頭を擦り付けている。……なんか、猫になりたいとか思ってしまう僕は、おかしいのだろうか。
「……猫といえば、猫又っていう妖怪が有名だよね」
合葉さんの気を引くため、僕はそんな話を始める。
「猫又……聞いたことある!」
よしっ。やっとこっちを見てくれた。
内心ガッツポーズをしながら、猫にドヤ顔をしてやる。すると、猫は思いっきりあくびをした。くそうっ! ……じゃなかった。
「なんでも、人の家で飼われていた猫が、年老いたら化けるらしいね。山中にこもって、やって来た人間を片っ端から喰ったり、飼い主の体を乗っ取って、村人の金品を盗んだりとか……。この猫も、そうならないといいね」
「ええぇ~……。み、ミャーちゃんは……大丈夫だよねぇ……?」
合葉さんが心配しながら聞くと、猫は突然立ち上がり、ぶるるっと頭を横に振った。うわっ、びっくりしたぁ! と合葉さんは尻もちをつく。その様子をみて、思わず吹き出してしまった。
「……くく」
「ほ、螢川くん?」
「いや、心配しないで大丈夫だよ。僕は、この手の話は全て嘘だと思っているから」
「えぇっ。そ、そうなの?」
口角を上げ、くいっとメガネを正す。
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