第三章:猫と犬と恋わずらい

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「昔の人は、不可解な出来事はなにかのせいにしないと、気が済まなかったんだよ。とある山でだけよく遭難するのも、村の金品を盗む犯人探しをするのも、面倒だから……妖怪のせいにした。つまり、ただの迷信さ」 「なぁーんだ。じゃあ、全然怖くないね」  ふんわりと笑う合葉さんを見て、僕は少し戸惑ってしまう。 「……合葉さんは、全然僕のことを疑わないよね」 「へ? どういう意味?」 「いや、僕が憑き物探偵としていつでも正しいかは、分からないよ? ってこと」  そもそも、存在自体が嘘なのですから。  すると、合葉さんは目を見開いてから、地面に手をついて僕の方に乗り出してくる。 「螢川くんは、立派な憑き物探偵だよ! だって、私の頭がちょっとハゲていたのも、音楽室からずっと変な音がしていたのも、螢川くんがいたから解決できたんだよ? みんな、螢川くんに救われてるんだから」  力説され、ズキズキッ、と罪悪感で胸が痛む。いや、でも……悪いことはしていないから、うん。いい、よね……?  でも、僕のホラ話を本気にして、合葉さんが興味を持ってくれているのなら……ちょっと、悪いことをしているのかも知れない。 「ありがとう。救われてるだなんてのは、大袈裟だけどね」 「そんなことないよ! ねっ、ミャーちゃん?」  合葉さんが猫の脇を持って抱えると、猫は合葉さんの肩に前足を置き、あろうことか唇をペロッと舐めてしまう。 「きゃあっ! すごい……なんか、ザラザラしたぁ~」 「こら、合葉さんの唇が傷ついたら、どうするんだ!」 「そこまでじゃないよ、螢川くん」 「いや、しかし……」  くそうっ。このたらし猫め!  じとり、と睨んでやると、猫はこちらの方にやって来て、今度は前足を僕の胸につく。 「うわぁっ! なにをす――」  チロリ。  猫は、僕の唇を舐めた。 「んごおおお!?」  変な奇声を発してしまい、今度は僕が尻もちをついていた。 「螢川くんっ!? 大丈夫!?」 「あぁ、いや……なんのこれしき……」  ちょ、ちょっと待って。今、合葉さん唇を舐めた舌で僕の……。うわあああっ、ここ、こんな、関節キス? みたいなことで騒ぐのはおかしいのかっ!?!? 「も、もしかして……螢川くん、猫アレルギーだった?」 「いや、全然。全くもって違います」 「そう? なら、いいんだけど……」  合葉さんも、どうしてかソワソワとしていて、しばらく目を合わせてくれなかった。  そんなこんなで野外調査は続き、古池に行ってみたり、百年続いているらしい駄菓子屋に寄ったりと、散策を続けた。お腹が空いたら、奮発してコンビニで人気のスイーツを買い、近くの公園で駄弁ったりもした。  つまり、ただのデートを楽しんだのだった。
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