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「……なんか、ごめんね。全然、野外調査らしきこと出来てなくて……」
帰り際。
いつもの通学路を歩きながら、僕は謝った。
合葉さんは、全然っ! と手を振って笑ってくれる。
「今日は、すっごく楽しかったよ! ありがとう、螢川くんっ」
あぁ。優しいな……合葉さんは。こんな僕なんかと出かけてくれて……いや、本当に憑き物探偵だと思われているだけだった。そうだった。
目の前に続く、夕陽に照らされた道を見つめる。
なんでもない、いつもの帰路。
ただ、合葉さんが隣にいるだけで。
どうしてこんなにも輝いて見えるのだろう?
……不思議だ。
まだ、別れたくない。もっと、ずっと喋っていたいな。
そんな、どうしようもないことを、口にしたくなってしまう。
「あの……螢川くん、」
合葉さんが、口を開いた。けど、なぜか言葉に詰まっているようだった。
「どうしたの?」
「ええっと……その、」
モジモジとしながら、合葉さんは上目遣いをし、なんだか僕の様子を伺ってくる。
顔が赤いのは、夕陽のせいだろうか。
「よかったら……その、また調査したいなぁ、なんて」
「! そ、そうだね! 是非……」
「ほんと!? 嬉しい」
合葉さんが、とろけるように微笑む。
……あぁ。もう、今すぐ僕のものに出来たらいいのに……。
なんて、生まれて初めての独占欲を自覚してしまう。
その後も、他愛のない話をしながら、二人で同じ道を歩く。一生、この道が続けば良いのに……なんてバカなことを考えているとき、ふと、僕は聞きたいことを思い出した。
「そういえば……あの、合葉さんって、僕のこと覚えてないよね?」
「へっ?」
「実は、小一の頃、同じクラスだったんだよ」
言うと、合葉さんは真顔で固まってしまった。
……あぁ、こいつ何を言っているんだ、って思われた、絶対……。
「ま、まぁ、すぐに転校しちゃったけどね! 苗字も、田中だったし」
すると、合葉さんはどんどんと目を見開き、そのうち、頬が真っ赤に染まっていった。
……な、なんだ!? この反応……どういうことだ!?
「あ、合葉さん……?」
ハッ、とした合葉さんは両手で口をおおい、僕から顔を背ける。
えっ、どうして……? 僕、なんか変なこと言っちゃったかな……。
心配して顔を覗き込もうとすると、合葉さんは、「うん」と小さな声を出す。
「――そんな昔のこと、覚えてないよ」
「あ……っ、そ、そうだよね! ごめん、変な話して……」
「ううん! び、びっくりだね! 実は、もっと前に会っていたなんて……」
それからも、合葉さんはなぜかソワソワとしていて、心ここに在らず、という感じだった。……よく分からないけど、急に嫌われた訳ではなさそうだし……可愛いから、気にしないでおこう。
とある十字路に差しかかると、僕らは手を振り合い、お互いの帰路につく。……まぁ、明日も会えるか、なんて慰めながら、僕はいつもの玄関に入っていった。
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