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「やぁ、螢川。昨日は楽しかったかい?」
月曜日。昼休みに図書室でも行こうかと渡り廊下を歩いていると、たまたま舞木さんに出くわした。前から歩いてきた舞木さんは、方向的に音楽室に行くとこだったのだろう。
「……どうして、舞木さんが知っているのかな?」
「はは。なにを隠そう、野外調査という名のデートを提案したのは、この私だからねっ!」
……。
ええっ、と。
「僕のために?」
「この鈍感男め」
「へぇ?」
舞木さんは、分かりやすく肩を落とす。
「まぁ良いわ。これで、少しは恩返しが出来たかな」
「恩返し?」
「新人賞の応募に間に合ったの」
にっこりと目を細める舞木さん。おぉ、それは良かった。
「……いい結果になるといいな」
「ありがとう」
「いや、僕はなにも。合葉さんが手伝ってくれたんだろう?」
「もちろん、ユリにもお礼言ったよ。……あんたのお望み通り、私たちは親友になれた。だからさ、そんなユリの超大事な親友からのお願いが一個あるんだけど、聞いてくれない?」
「ほう。なんでも聞いてやろう」
「告白して」
「ムリ」
舞木さんは、突然僕の肩を揺すって怒りだした。
「今なんでも聞くって言ったじゃないの!」
「そ、それだけはちょっ……僕にはまだっ……、やめろぉ!」
腕をひっぺはがそうと抵抗していると、「あ、ユリ」と舞木さんが手を止めた。
振り返ると、少し先に合葉さんがポカンとして立っている。
合葉さん、いつの間に……っ!?
ええいっ、こんな怪力女とやり合っている場合じゃない!
「じゃあ。僕はこれで」
「あっ、逃げたな! この意気地なし!」
「つい最近まで妖怪ごっこしてたのは、なに木さんだっけな?」
「んなっ……」
勝ち誇った笑みを見せ、まだなにか言いたげな舞木さんに背を向けると、合葉さんの方に近づいていく。合葉さんは、すでに反対方向に歩き出していた。
「合葉さんっ」
呼び止めると、ぴたり、と足を止めてくれる。
けど、どうしてか、こちらを振り返ってはくれなかった。
……ハッ。というか、教室の外で合葉さんと会うのは珍しいから、とつい勢いで話しかけてしまったけど……なんの用事もないのだった。……声が、聞きたかっただけなのかな。
なんて言える筈もなく、「ええっと……」と口ごもっていると、合葉さんが僕に背を向けたまま話し出す。
「コトカと、すごく仲良さそうだね」
「え? あぁ、舞木さんか。いや、別に仲良いとかじゃないよ」
すると、合葉さんが振り返る。
やっとこちらを見てくれた。
と思ったら、どうしてか、不満げに唇を尖らせている。
「誤魔化さなくてもいいのに」
「……へっ? いや、誤魔化すとかじゃなく、本当に仲良くなんかないって」
なに? どうしたんだ?
今日の合葉さん……なんか、機嫌が悪い?
そのうち、あっ……と合葉さんは片手で顔を覆った。
「なに言ってんだろ、私。ごめんね、急に……。じゃあ」
合葉さんは、急ぎ足で駆け出していく。
「……。合葉さん……?」
結局、その日は合葉さんと、一度も会話をすることがなかった。
ちょっと前までは、そんなの当たり前だったのに……。
物足りなくて、実に味気ない。
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