第三章:猫と犬と恋わずらい

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「螢川くんっ! ビッグニュースだよ!」  次の日。  合葉さんは、いつも通り、意気揚々と話しかけてきてくれた。  よかった。やっぱり、昨日の違和感は気のせいだったのか、と安心する。 「なにがあったの?」  聞くと、ふっふっふっ、と合葉さんは意味深に笑う。 「私のお姉ちゃんがね、尻尾を掴んだのです!」 「尻尾?」 「そう! 狼少女の!」  一層キラキラと目を輝かせ、身を乗り出してくる合葉さん。 「狼、少女? 少年ではなく?」 「違うよ! それはただのホラ吹き少年のことでしょ?」  ぐふっ。  そ、それは僕のことデスカネ……。  予期せぬところからみぞおちを殴られた気分だった。 「じゃなくって、本物なの! 耳と尻尾が生えてて、アオーン! って鳴きながら家の屋根から屋根へ飛び移っていったんだって!」 「…………。お姉ちゃんの、夢の話ではなく?」 「もう、違うってば。お姉ちゃんの使ってるSNSにも、夜に同じようなのを見た、って声で溢れてたんだよ?」  溢れてる、といっても。聞いたところ四、五人程度だった。でも、確かに偶然周りの友達も不思議な現象を見たとなれば、それはもうテンションくらい上がるだろう。 「超ー限定的に、さらに突発的に、エイプリルフールごっこが流行り出したとかではなく?」 「なにそれ! その可能性の方が低いでしょ!」  確かに。  うーん、と僕は頭を悩ませる。実際に僕は見ていないから、どうも信じられない。 「螢川くん。これは、もう一度野外調査する必要アリ! だねっ」  両拳を胸の前でにぎり、意気込む合葉さん。 「……でも、その狼少女の目撃情報って、全部夜の話でしょ?」  小学生が、夜の街をふらつくもんじゃないだろう。お母さんに怒られるの、コワイし。 「そうだけど……」合葉さんは肩を落として俯き、あっ! とまた明るい笑顔でこちらを見つめた。「逢魔が時に調査すればいいんだよ! その、放課後、とか……」  ほ、放課後!? 合葉さんと、放課後デート!? 「そ、それなら……まぁ、」 「やった! 決まりだね!」  そして――早速、今日の放課後に、二人でまた公園に集まることになった。
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