第三章:猫と犬と恋わずらい

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 こうも短期間に合葉さんとデートできるようになるとは……。僕も成長したものだ。こうして、いつか想いも実るようになって……いやいや、それはさすがに無理かぁ!  はっ、と乾いた笑いをひとりで漏らしていると――ジャリ。後ろから、足音が聞こえる。  振り返ると、合葉さんが仁王立ちしていた。 「あっ――……、ん? ええぇ!?」  合葉さんに、犬の耳と尻尾が生えていた。  あわてて目をこすって見開いてみるけど、やっぱり、生えていた。 「ええっと……あれ? あ、コスプレ……?」  狼少女に、カタチから寄せよう的な?  返答はない。  なんだか……いつもと雰囲気が違う。  目つきが――合葉さんじゃない。  鋭くこちらを射抜き、じっと獲物を狙っているようだった。  ざわつく胸が、冷や汗が、ここから逃げろ、と僕に言っている。  だけど、どうしてか――ここから一歩でも引いたら、もう二度と戻って来れないような気がした。 「くくくくく……」  合葉さんが、思い切り口角を上げ、低い声で笑う。 『いかにせしや、憑き物探偵よ』 「!?」  なんだ、これ……。  頭のなかに、声が響いてくる。 『本物のわれと会えて光栄だろう? あー、何百年ぶりに、人と話したりや。これでも、今のことは心得とるつもりだが。わが言の葉は、伝わっているのか?』 「なっ……」  なにが起こっている?  僕は今、夢を見ているのか? 『嗚呼、やはり、人に憑くのは快感だ――』  憑く……だと? 「お前は、なに者だ?」  すると合葉さんは、不思議そうにこくびを傾げる。 『犬神様に、決まっているだろう?』  い、犬神様……?  犬神様って、あの――日本の憑き物として有名な一種で家系に憑いて繁盛させるものの贄が尽きたら一瞬で家系ごと滅ぼしてしまうほどの強い呪詛の力を持つ――以下略。  とにかく、犬神様なんてのは、ある家系を憑き物筋だと差別したり、精神病者を犬神に憑かれているといって隔離したり……不都合なことを憑き物のせいにする昔の人の癖で生まれたもので。  つまり、ただの迷信。  そう、思っていたのに―― 『(あるじ)がために、お前を殺しにきたんだ』  今、僕の前には、本物の犬神様がいた。  ……って、ん? なに? 「殺す? うわああぁあっ!!!!」  合葉さん――いや、犬神様が襲いかかってくる。  気づいたら僕は背中から地面に倒れていて、お腹の上に犬神様が乗っている。逃れようと必死にもがくけれど、中学生の女の子とは思えないほど強い力で腕を抑えつけられ、身動きが取れなくなる。
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