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『せっかくなれば、われが力を貸してやろう、と思ひてな。……これも、なにかのご縁なり。お前たちのごとき弱人だけではどうしようもなくとも、二人と一匹ならば、怖いものはなかろう?』
僕は、差し出された手のひらと、犬神の顔を交互に見る。
……タッグを組もう、ということか?
憑き物が、自ら、人に――。
「ぷっ……」
思わず、僕は吹き出してしまった。
『なにが可笑しい?』
「いや、だって……お前、」
すっごい、合葉さんのこと、大事に思ってんじゃん。
合葉さんの周りにいる、悪い憑き物たちを、追い払いたくて仕方がないんだ?
こんな、ただのホラ吹き少年に、肩入れしてまで。
「お前……良い奴だな」
初めて、犬神と思惑が一致した。
合葉さんのためというのなら、僕が頷かない訳がない。
「いいだろう、犬神。お前を、憑き物探偵の助手第二号に任命してやる」
ぐっ、と犬神……いや、合葉さんの手を、強く握りしめた。
合葉さん。
安心して、僕は君を、悪いようにはしない。
ただ、君を守るためなら……たとえ鬼とでも手を取り合っていたさ。
君が好きだから。
たったそれだけのことで、僕はどこまでも強くなれる。
そう確信すると、ぬわっはっはっはっは! と犬神は豪快に笑った。
『では、決まりなり! 憑き物探偵よ、これからも、この娘の心を弄べ。さすれば、われがこの娘の心に取り憑きやすくなり、好きに出でてこらる』
「はっ? 弄ぶ……? そんなこと、この僕がするわけないだろう!!」
『間違ひき。そのままで良し。それでは』
「おい、ちょっ――」
ぐらっ、と突然合葉さんの身体が倒れたので、慌てて支える。
合葉さんは、また、なにがなんだか分からないような顔で、目をこすっていた。
「合葉さんっ、大丈夫?」
「あれ? 私……寝てた?」
すると、僕が身体を支えていることに気が付き、びくぅっ、と肩を上げた。
でも、逃げていこうとはしなかった。
「……あ、あり、ありがとう」
顔を真っ赤にし、少しだけ離れてから、なぜか前髪を整えていた。
僕は、合葉さんの顔をしっかりと見て、口元が緩んだまま話す。
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