第三章:猫と犬と恋わずらい

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『せっかくなれば、われが力を貸してやろう、と思ひてな。……これも、なにかのご縁なり。お前たちのごとき弱人(じゃくにん)だけではどうしようもなくとも、二人と一匹ならば、怖いものはなかろう?』  僕は、差し出された手のひらと、犬神の顔を交互に見る。  ……タッグを組もう、ということか?  憑き物が、自ら、人に――。 「ぷっ……」  思わず、僕は吹き出してしまった。 『なにが可笑しい?』 「いや、だって……お前、」  すっごい、合葉さんのこと、大事に思ってんじゃん。  合葉さんの周りにいる、悪い憑き物たちを、追い払いたくて仕方がないんだ?  こんな、ただのホラ吹き少年に、肩入れしてまで。 「お前……良い奴だな」  初めて、犬神と思惑が一致した。  合葉さんのためというのなら、僕が頷かない訳がない。 「いいだろう、犬神。お前を、憑き物探偵の助手第二号に任命してやる」  ぐっ、と犬神……いや、合葉さんの手を、強く握りしめた。  合葉さん。  安心して、僕は君を、悪いようにはしない。  ただ、君を守るためなら……たとえ鬼とでも手を取り合っていたさ。  君が好きだから。  たったそれだけのことで、僕はどこまでも強くなれる。  そう確信すると、ぬわっはっはっはっは! と犬神は豪快に笑った。 『では、決まりなり! 憑き物探偵よ、これからも、この娘の心を弄べ。さすれば、われがこの娘の心に取り憑きやすくなり、好きに出でてこらる』 「はっ? 弄ぶ……? そんなこと、この僕がするわけないだろう!!」 『間違ひき。そのままで良し。それでは』 「おい、ちょっ――」  ぐらっ、と突然合葉さんの身体が倒れたので、慌てて支える。  合葉さんは、また、なにがなんだか分からないような顔で、目をこすっていた。 「合葉さんっ、大丈夫?」 「あれ? 私……寝てた?」  すると、僕が身体を支えていることに気が付き、びくぅっ、と肩を上げた。  でも、逃げていこうとはしなかった。 「……あ、あり、ありがとう」  顔を真っ赤にし、少しだけ離れてから、なぜか前髪を整えていた。  僕は、合葉さんの顔をしっかりと見て、口元が緩んだまま話す。
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