01 夏野、ひとこと余計

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 昼食後の低血圧、低体温。ただでさえ怠いそれらに、追い打ちをかけてくる夏のうだるような暑さに負け、突っ伏した腕の中でうつらうつらとしていた昼休みの終わりのこと。昨日までの僕にとっては、学校生活の中においてだれにも邪魔されずに寝られる、貴重で平穏な時間のはずだったのだが、今日は少し様子が違った。明らかに外野がうるさいのだ。今日だってせっかくいつものように、昼休みの終わり際、ちょうど五限が始まるまでの十五分間を、午後の授業を生き抜くための束の間の休息に使おうと思っていたのに。 「あ、そうそう。それで要件は本当に申し訳ないのですが、次の時間も樽井くんに教科書を見せてほしくて」  なんて、またもや僕の鼓膜を勝手に揺らしていった声のせいで、腕の中に守られた世界でぼんやりと、でも確実に目が覚めてしまった。正直、目覚めは最悪。 「⋯⋯うるさい、ちょっとだまって」そんな雑な苦情をいれようにも、脳以外が完全に覚醒したわけではない僕の身体では上手く口が回らずに諦めた。かわりにその場にそっと瞼を下ろしてもうひと眠りできる態勢を整える。  ちゃんと寝息をたてて、彼女のおしゃべりな口に牽制もしておいた。これでもう、諦めてくれるだろう。そう思い、僕はまたうつらうつらとした意識の中に吸い込まれていった。
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