01 夏野、ひとこと余計

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けれど現実は甘くないようで。もう一度、今度は遠慮がちに肩を小突かれて突っ伏していた顔を渋々と上げると、隣に座る夏野からの攻撃がやっと止んだ。何度寝ても覚めても、彼女は僕の隣に座っていた。久しぶりに開いた瞳には教室の天井からぶら下がった蛍光灯は眩しくて、一旦瞳を閉じて光の強さをリセットした。 それから、ゆっくりと夏野を見上げてみれば。机に頬杖をつき身体だけを僕の方に向けていた彼女は、目が合うとニッと歯を見せて笑った。僕を叩き起こしたというのに、憎たらしい笑顔なんか向けやがって。と思う気持ちに蓋をする。健康的な笑顔とは裏腹に、透明の下敷きをバタバタと顔の前で大雑把に揺らして、少しでも暑さを和らげようと躍起になっている。  淡い空色のカッターシャツを着ている生徒が大半を占めているこの教室で唯一、真っ白なセーラー服に身を包んでいる彼女は異様だった。けれど、日に焼けた肌と色素が抜けてしまったかのような淡い茶色の髪はそんな彼女によく似合っていた。見つめすぎたのか、不思議そうに首を傾げた夏野に机の脇にかけてある鞄を指差す。  首を傾げたせいか、夏野の肩までしかない髪の毛が揺れた。切り替えるように大きく息を吸って、肺の中からすべての息をありったけの時間をかけて吐き出す。ため息交じりにしか言葉が出せなくなってしまったみたいだった。大きく息を吸って、重たい口を開いた。
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