1.イイヒト

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 ——委員会……。  中学の頃にも、それに当たる役職があった。保健だとか美化だとか放送だとかだ。その時は専門委員会という呼称だった。この高校では普通に委員会と呼ぶらしい。 「他の委員会は? ないの?」  そう尋ねると、ないと一言で返された。  それ以外に残っていないのなら、図書委員会とやらに入るしかないのだろう。  本当は委員会になんて所属する気は毛頭ない。けれども、訳あり(、、、)の僕にわざわざ尋ねてくるということは、彼女の言う通り委員決めが難航したということだ。おそらくそこで、欠席している水無瀬透——つまり僕——に尋いてみようと、スケープゴートにするつもりでそういう提案が出たに違いない。  ここで断れば、昨日も行われたであろう面倒事の押し付け合いが再び始まることになる。委員決めが長引いたのは水無瀬透が拒んだせい——なんて迷惑がられるのは嫌だ。想像するだけで、彼らの理不尽な舌打ちや溜め息の音が聴こえてくる。 「……それで良いよ」  不承不承受け入れた。  図書委員くらいならやっても良いかもしれない。他の委員会と比べれば簡単そうな印象だ。やることといえば、どうせ本の整理だとか貸し出しの受付だとか、その程度だろう。  そもそも、いつまた死のうとするかも判らないから、先のことなんてどうでも良かった。そんな投げ遣りな気持ちもあって、気が進まないながらも面倒事を受け入れることにした。 「そう。じゃあ決定だね」  そう言うと女子生徒は、持っていた名簿を机に当てて、僕の名前の横の空欄に〈図書〉と、正方形にピッタリ収まりそうな几帳面な字で書き込んだ。 「図書委員は一クラスにつき二人ずつだから。もう一人の子と仲良くね」 「え、それ聞いてな——」 「じゃあよろしくね」  有無を言わさず長髪の女子生徒は背面で手を振って、屯する女子たちの輪に加わった。  その演技臭い仕草に、僕はやはり不気味さを感じた。これは拒絶反応に近いかもしれない。  とにかく、あの人とはなるべく関わらない方が良い。  ——まあ。  一々そう意識しなくとも、僕は他人とは関わらないつもりなのだけれど。
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