1.イイヒト

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僕は一人、頬杖を突いてクラスの様子を眺めた。  教室を観察していると、このクラスは入学三日目にして既に、グループがある程度まで完成されていると判る。  一番大きいグループに、僕は冷ややかな目を向ける。男子の一番騒がしい集団だ。その五人はいちいち挙動が大きく、馬鹿笑いをしながら肩を殴ったりハイタッチしたりなんかをしている。何がそんなに楽しいのやらと、僕は小さく鼻で笑った。  次に目立つのは、女子で一番大きなグループ。比較的静かだけれど、聞こえて来る言葉は下品な単語ばかり。単に面白いと思って言っているのか、あるいはあえてそういう言葉を使うことで他と交流を広げやすくするという目論見があるのか。どちらにしても、聞いていて気分の良いものではない。  他は二人から三人の小さなグループだ。そんな彼ら彼女らは、慣れない相手を互いに探り合うように当たり障りのない会話をしている。孤立を避けるのに必死だ。  そして。  誰ともつるまず孤立している生徒が、僕以外にもう一人。  ——どこにでもいるものだな。  自分のことを棚に上げて胸中で笑った。  この席からほぼ対角にある窓際の席で、その生徒は静かに読書をしている。  制服は女子の物を着ているようだけれど、相貌は外からの逆光になっているから判らない。本を読んでいるというのは、だからシルエットで判断したのだ。  ——声をかけてみる……?  ふとそんな選択肢が脳内に現れて、まさかと一笑した。  ありえない——それが僕の答えだ。  僕なんかが声をかけても、気持ち悪がられるだけだ。初対面の相手に、それも特別理由もなく話しかけられては、訝しむか疎ましく思うのが普通だ。  つまり、こちらから話しかけても双方にメリットがない。それどころか、不審人物という不名誉な肩書きが増える分、僕の方にはデメリットがある。  ささやかな観察を終えて姿勢を前に向けたその時、一人の女子がはきはきとした声を上げた。
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