春風と驟雨

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「はあ?」  僕は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。嘘なんてついていない。本当に妹なのだ。だが、リノは納得しない。 「絶対ごまかそうとしてるんだ! 私、別れるからね!」 リノは素直な性格なのだが、その分思い込みが激しいところがある。仕方ない……。 「ちょっと待って」  僕はソファから立つと机の引き出しから、小箱を取り出して持って来た。 「リノ。僕と結婚して欲しい。こんな形でプロポーズするとは思ってなかったよ。ちゃんと色々計画立ててたから。でも、今リノに振られちゃったら元も子もないからさ」  僕がそう苦笑するとリノの顔が大きく歪んだ。そうして震える指先で指輪を手に取る。だが、信じられないことに、リノは指輪を思いっきり床に叩きつけた。  唖然とする僕にリノは言った。 「ユウくんはいっつもそうだよ! 何でもできて、私のことは子ども扱い! バカだと思ってるんでしょ!」 「そんなことないよ!」 「嘘だ! 私のこと、自分より頭が悪い女だと思ってる! 違うって言える?」 「リノ。頭が良いとか悪いとかじゃなくて、人には個性があるから……」 「そういう言い方がバカにしてるって言うの! もうユウくんとは一緒にいたくない!」 「リノ……」  言葉を失った僕にリノは再び勝ち誇ったような表情を見せた。 「でもね、私だって優くんより賢くて優しいときがあるんだからね!」  僕は唇を噛むと視線を下に向けた。  そんなに嫌な思いをさせてしまっていたのか……。  リノとは大学時代の友達を通じて知り合った。確かにちょっと思い込みが激しくて、わがままなところがあったけど、決して馬鹿にしたことなんてない。  僕とってリノのその欠点は「素直で自由」という長所でもあったから。自分をいつも余計なルールで縛りがちな僕にとって、春風のように強く軽やかなリノは愛さずにはいられない人だった。
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