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それから二年が過ぎ、僕は引っ越しの準備をしていた。あの日以降、リノからはふっつりと連絡が途絶え、僕も敢えて連絡をしなかった。
何度も話したい、声が聞きたいと思ったけど、その度にあのざあざあ降りの雨を思い出すのだ。すると、「もうあきらめなさい」と誰かに諭されているような気がして、スマホに伸ばしかけた手を途中で止めるのを繰り返していた。
思えばリノはいつの頃からか変わってしまった。僕と一緒にいてもため息ばかりつくようになり、以前の楽しそうな笑顔を見せることもなくなっていた。
いつの間にかどこかでリノと僕の心はすれ違ってしまったのだろう。頭ではわかっていても気持ちがどうにもならないということは恋愛に限らずよくあることだ。
リノもまたこれまでの恋人と同様に、小利口なだけで他に何の取り柄もない僕に、大きな欠点はないとわかっていても、どこかの時点で飽きてしまったのだろう。
けれど、根が優しいリノは何の落ち度もない僕に別れ話を切り出すのに気が引けていた。だから、たまたまホテルのラウンジで僕と妹が一緒にいるのを目にしたとき、これは別れる絶好の口実なると内心安堵して写真を撮ったに違いない。
引越しの準備をしながら、リノの私物である本や化粧ポーチを見つけて、どこか懐かしくそんなことを思った。
僕が引越しをするのは来月に結婚式を控えていて、新居に妻と移り住むためだ。リノを失ってどん底の気分のときに彼女と出会ってそのまま交際に発展し、先月入籍した。
リノの私物をどうしようかな?
と迷ったが、捨てることもできないので、彼女の実家に宅急便で送ることにした。実家にしたのはリノもまた引越しているかもしれないと思ったからだ。それに、彼女の母親とは一、二度会って話したこともあった。結婚のことは書かずに「引っ越しますので」という理由と「理乃さんによろしくお伝えください」とだけ記した手紙を同封した。
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