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「じゃあ、式の段取りは今度の日曜日だね! ……うん。わかってる。ちゃんと遅刻しないで行くから。……うん。ありがとう。おやすみ!」
一人暮らしの部屋に最後の週末を過ごすためオフィスから戻ると、郵便物を手に結婚相手である彼女からの電話を切った。
窓を開けると春の夜風がふわりと流れ込んで来る。ときめきと不安を同時に感じさせる春風特有の感覚を目を閉じて味わってから、スーツのジャケットを脱いだ。
ソファに腰を下ろして、郵便物をチェックする。銀行からのクレジットカードの明細と電気料金のお知らせの封筒を開封した後に、手紙があることに気づいた。
誰からだろう?
そう思いながら差出人を見ると、リノの母親からだった。
「お礼の手紙か。リノのお母さんらしいな」
僕はリノとは正反対で几帳面な印象だった彼女の母親のことを思い出しながら微笑むと手紙の封を切った。
前略 祐介さん、お久しぶりです。お変わりないでしょうか。
理乃は先月亡くなりました。白血病でした。祐介さんとお別れした後すぐに会社も辞めて入院し、闘病生活を送っていました。最後まであの子らしくわがままな、でも自由で強い人生を全うしました。
生前は祐介さんには大変良くして頂いて、感謝の言葉もありません。理乃も最期まで祐介さんとの記憶を生きる糧としていました。
葬儀には呼ばないようにというあの子立っての遺志があったため、お知らせしませんでした。
どうぞ祐介さんは理乃の分まで幸せな人生を送って下さい。
草々
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