春風と驟雨

7/7
前へ
/7ページ
次へ
 春の強い夜風がザっと僕を包み込み、壁のカレンダーをパタパタ揺らした。その自由さと危うさと孤独感が、僕の心を欲しいままひたすらに吹き抜けていく。しばらくの間、身動き一つ取れなかった。 「でもね、私だってユウくんより賢くて優しいときがあるんだからね!」  あの日のリノの言葉が耳の奥でリフレインしている。 「……本当だね。リノの言う通りだ。で、僕はどうしたら良い?」  気づくと僕はベッドルームのシロクマのぬいぐるみを見つめていた。  その夜、僕はベッドに入っても一睡もできなかった。時折、目を開けるとすがるようにシロクマのぬいぐるみを凝視したが、いつも通りぬいぐるみは何も答えない。当たり前だ。  けれども、夜半過ぎ雨音が外から響いて来た。やがてそれは胸に迫るほど激しくなった。あの日のように。  泣き叫ぶ子供のような抑えきれない切なさと悲しみを、雨がやさしく打ち静める音で部屋がいっぱいになる。  ――それで僕は悟ったのだ。もうあきらめるしかないのだ、と。                                 <FIN>
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加