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春の強い夜風がザっと僕を包み込み、壁のカレンダーをパタパタ揺らした。その自由さと危うさと孤独感が、僕の心を欲しいままひたすらに吹き抜けていく。しばらくの間、身動き一つ取れなかった。
「でもね、私だってユウくんより賢くて優しいときがあるんだからね!」
あの日のリノの言葉が耳の奥でリフレインしている。
「……本当だね。リノの言う通りだ。で、僕はどうしたら良い?」
気づくと僕はベッドルームのシロクマのぬいぐるみを見つめていた。
その夜、僕はベッドに入っても一睡もできなかった。時折、目を開けるとすがるようにシロクマのぬいぐるみを凝視したが、いつも通りぬいぐるみは何も答えない。当たり前だ。
けれども、夜半過ぎ雨音が外から響いて来た。やがてそれは胸に迫るほど激しくなった。あの日のように。
泣き叫ぶ子供のような抑えきれない切なさと悲しみを、雨がやさしく打ち静める音で部屋がいっぱいになる。
――それで僕は悟ったのだ。もうあきらめるしかないのだ、と。
<FIN>
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