私、聖女になりますので

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 アンジェリカは、それをどう使うべきかも、光が何故現れたのかも知らない。  でも、自然と身体が動いた。  まずアンジェリカは、扇子を持っている右側の腕を上げた。  扇子はまだ、この時点では閉じられている。  それから、アンジェリカは右手のひらの動きだけで扇子を開く。  バッと、扇子が空気を切る音がした。  純白で、レースの細かい刺繍が入った、それはそれはアンジェリカも見たことがないような、美しい扇子だった。  その扇子の綺麗な面を、アンジェリカは怨霊の塊の方に向けた。  言葉は、自然と出た。   「消えろ!!!!」  そのままアンジェリカが扇子を振り下ろすと、扇子から真っ白い光が放出された。  その光は、ミシェルが放った矢よりもずっと、強く目に痛い。  光はまっすぐ怨霊の塊への向かっていく。  怨霊の塊はちょうど、コレットにまさに触れようとしていた。   (届け届け届け!!!)  アンジェリカは祈った。  怨霊の塊は、コレットの髪に触れた。  コレットのふわふわな髪が揺れ始めた。 (間に合え!間に合って!!!)  その髪と怨霊の塊の間を、アンジェリカが放った光が通り過ぎた。  その瞬間、強い風が吹き荒れた。 「きゃっ!!」  コレットが風の勢いで地面に倒れそうになったところを、ミシェルが駆けつけて抱えることができた。  コレットは、そのままかくん、とミシェルの腕の中で気を失った。 「コレット!」  アンジェリカは、自分のせいでコレットを傷つけたのではないかと焦った。   「大丈夫! 気を失っているだけです!」  アンジェリカの考えを察したミシェルはすぐに言葉でのフォローを入れると、そのままアンジェリカに説明した。 「祈りなさい!」 「祈り?」 「この怨霊たちが、この世界から消えることを!」 「ど、どうすればいいの!?」  アンジェリカは、ミシェルが言う祈りの意味が分からなかった。  けれど、ミシェルはこう断言した。 「今さっき、あなたがしたことを繰り返すのです!」 「私がしたこと!?」 「そうです! あれだけの強い光を出すためには、強い想いが必要なのです! アンジェリカ様はさっきそれができた! 同じことをすれば良いのです!」 「さっきと、同じ……」  アンジェリカが必死に考えている間に、怨霊の塊が金切り声をあげながらアンジェリカに視線を向けた。  これは、アンジェリカに攻撃対象を切り替えたということだ。  視線に殺気が含まれていることにも、アンジェリカは気づくことができた。  処刑場で受けた視線と、全く同じ鋭さだったから。    (まずい……!)  アンジェリカは焦り、そして恐怖した。自分に、気持ち悪いぎょろっとした目玉の視線が集中してしまったことに。 (どうすれば良かったの……!?)  アンジェリカは必死に思い出す。  さっき、自分はどうやってあの強い光を出したのか。  ふと、視線にぐったりしたコレットが入ってきた。 (そうだ……! さっきは……!!)  怨霊の塊が、ものすごいスピードでアンジェリカに襲い掛かろうと迫ってくる。  アンジェリカは、また扇子を持つ腕を上げた。  そして、今度は確信と共に叫ぶ。 「くたばれ!!」  その瞬間、扇子からはさっきよりも強い光が放たれた。  今度は、風は出なかった。  けれど、その光はそのまま怨霊の塊の黒くて巨大な身体を包み込んでいく。 「ぎゃあああああああ!!!!」  酷く重い断末魔が、光が広がると共に空気に溶けていく。  すっと、その声が消えたと思ったら、光も弱まっていった。  そうして完全に光が消え失せ、空間の本来の明るさを取り戻した時は、怨霊の塊は消えていた。  この時、アンジェリカの息は荒かった。  呼吸の、本来の心地よいスピードを取り戻すまでに、何回も肩を上げ下げして呼吸しなくてはいけなかった。  自分の身体の周りだけ、重力がよりかかったかのようだとアンジェリカは感じていた。 「い、今のは……」 「神が、授けたんですよ。2回目の人生を今度こそあなたが正しく、生き残れるために」  ミシェルはそう言うと、コレットを抱き抱えたまま扉の方に向かった。 「正しく、生き残る?」 「今度こそ、あなたを自死させないため……ですよ。何故ならあなたは、次の神候補なのですから」  神候補。  それは、夢の中だと思っていたあの雲の上で、自称神から言われたことだった。 「教皇様……あなたは一体どこまで知ってるの?」  それだけではない。  アンジェリカには聞きたい事がたくさんあった。  それらはまだ、1つも聞き出せていない。 「呪いは? 私は、呪われてるの?」  1週間前のことを覚えてないの?と母親に言われた時、もちろんアンジェリカはすぐに記憶を漁った。  けれど、何1つ心当たりが見つからない。  何故なら、私の本当の1週間前は……アリエルが毒を飲んだ日であり、私たちが処刑宣告を受けた日なのだから……。 「こちらへお越しください」 「え?」 「後ほど片付けますが、こんな部屋の状態では集中できませんからね。場所を移動します」 「どこに向かうんですか?」 「祈りの間です」  それは、聖堂の中心に位置する場所だ。 「そこで、お話しましょう。アンジェリカ様の今までと、そして……今後について」
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