私、聖女になりますので

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 ルイは、明日の舞踏会でアンジェリカに渡すために用意させていた指輪を見ながらため息をついた。  本当は王室の結婚では指輪は必要なく、将来の王妃になる証としてのティアラだけが贈られるはずだった。  だが、国民の間で「永遠の絆と愛を象徴する指輪」を男性が女性に婚約時に贈るというのが流行っていると聞いたルイは、自分の気持ちを伝える時にアンジェリカに渡したいと考え、追加で作らせる事に決めたのだった。  選んだ宝石は、アンジェリカの目と同じブルーサファイアと、髪の色と同じオパール。メインをブルーサファイアにし、オパールは飾りで配置されている。  「この仕事がうまくいけば、王家の御用達になれるかもしれない」という餌をルイがチラつかせた甲斐もあり、これまでの王妃が身につけてきた、無駄にゴツい宝飾品よりもずっとセンスが良いものに仕上がった。清楚で上品、それでいて知的な雰囲気を持つアンジェリカに相応しいものだと、ルイは心から感心した。  本音を言えば、自分の瞳の色と同じオニキスも加えたかったのだが、職人からは 「バランスが崩れてしまうのでやめた方が良いでしょう」  と言われてしまったので、仕方がなく諦めた。 (この指輪を渡して、アンジェリカに自分の気持ちを伝えたい)  このままでも、何もなければアンジェリカと夫婦になれる。  だが、ルイはそれだけではダメだと分かっていた。  自分の気持ちをきちんと伝えた上で、まずは婚約者になってくれたことの感謝を伝えなくてはいけないと考えていた。  その上で、何故自分がアンジェリカを求めたのかを説明したいとも、考えた。  そうして最後に、覚えたての愛の詩を用いながら、アンジェリカに自分がいかにアンジェリカを好きで求めたかを知ってもらいたいと強く願っていたのだ。  自分がアンジェリカを望んだせいで、彼女が辛く苦しい教育を受けさせられたことも、ルイは事実として知っていた。  だから、いつかアンジェリカが逃げ出すのではないかと、不安になることも多かった。   (今日の日まで、アンジェリカには苦労をさせてしまった……)  そんな言葉でしか、彼女に与えた苦痛を表現できない自分を、ルイは苛立たしく思っていた。  だからせめて、労いや感謝の気持ちを形に残したいとも思い、国民たちの流行に便乗したのだった。 「どうか、明日の舞踏会がうまくいきますように」  と、無意識に呟きながら、そっとアンジェリカへの想いを託した指輪にルイが口付けをした時だった。想定外の客がやってきたという知らせを受けたのは……。
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