一 帰省

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 父に普段は飲まない日熱燗を注がれた。父ももうすぐ喜寿を迎えるが年齢故の衰えはあるも病気もせず元気に毎日飲んでいる。母はそれを良く思っていないようだがストレスを溜めるよりはいいだろうと半ば諦めていると笑いながら話をする。 「子どもたちは元気かのう」  口を開ければ孫の話。現役世代(われわれ)よりも、子供の成長が楽しみでたまらないのだろう。家においてきた子どもの話をすると父も母も盃が進み、ただえさえ細い目が瞑っているくらい細くなるのを見て僕も盃を開けて答える。  そんな食事の合間、普段は使われてない床の間に立派な雛人形が飾られている。  我が家含め都会の家ではまず置けないだろうの七段飾り。置けないのではなく置かないと言っていい。都会の生活は合理化しすぎて雛人形を飾る習慣が減っていると感じるし、娘はかつて雛人形を「幼稚園で見るもの」とまで言った。  そして日付は3月3日を過ぎている。この時期に娘を連れて来たことはないから、これは孫のためではないのは理解できる。 「まだ、人形直してないんだね」 「毎年だけど出すと片付けるのもったいないのよね」  僕がポツリと言うと母はカウンターの向こうでしゃもじをもったまま笑い出した。 「んで、『みーやん』は?」 「セネガル」 「またそんなところへ行ってるの?」
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