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出会い
新学期は、胸がドキドキする。どんなクラスメイトがいるのだろう、友達の輪に入っていけるだろうか。勉強についていけるだろうか。
高校1年をほとんど病院で過ごした川島薫は、心ここにあらずで朝食のハムエッグとトーストを口に入れ、コーヒーで流し込んだ。
学校も、ゴールデンウイークを過ぎると友達ができたり、この人はあんまり合わないな、という人物ができてしまう。
薫は薬を飲み、歯を磨いて、制服を選ぶ。
私立清水高校には、制服が無い。自由な校風を謳い文句にする学校は、数年前にブレザーを廃止したのだ。
いつも何を着て登校しようかと考える。逆に、制服があった方が楽なのではないかと思ってしまう。それだけ自由の代償は大きいのかもしれない。
タンスからスカートとズボンを取り出し、じっと見比べてからズボンを選んだ。スカートに比べて運動が楽だからだ。
薫はカバンを背負い、自転車に乗った。
登校すると、クラスメイトが「おはよ」と声をかける。薫も「おはよう」と返した。
カーストというほどではないが、クラスにも派閥ができる。勉強も運動もできるリーダーが集まった派閥。クラスで一番発言力が強い。
元気が売りの、ちょっとちゃらちゃらした派閥。ファッションやネイルの話が飛び交う。
薫はどちらにも属せず、文芸や、アニメが好きな派閥に収まった。昼休みはロックアニメの今後について盛り上がる。
「こういう音楽ものって、何年かの周期で盛り上がるよね」
真紀ちゃんの言葉に、うんうんとうなずいた。
放課後は、図書委員だ。担任の先生が、入院生活の長かった薫を考慮して、あまりハードワークのない委員に割り振ってくれたのだ。
薫も、委員の活動が好きだった。元々本ばかり読んでいた。今月のおすすめ本を正面の棚に並べたり、クラスメイトがどんな本を借りたかをパソコンで検索できる。もちろん閲覧履歴は個人情報だから、他の人には言えないが、自分と同じ趣向の人を見つけると、共同体みたいな気持ちになってしまう。
脚立に登って高架の本の埃を払っていると、立派な装丁のハードカバーがぐらりと揺れた。慌てて腕を出すが、時すでに遅し。連鎖的に上方の本が崩れ、洪水のように降り注ぐ。
「きゃっ」
思わず悲鳴を上げてしまった。
「おっと」
脚立から転落しかけた薫の背を、太い腕が支えてくれた。
「きゃっ」
振り向いて、また悲鳴を上げる。
腕を出した人物は、野球部の主将だった。
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