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肉体は、同じ人間かと思うほど分厚く、たくましい。身長も、180センチはあるのではないか。
髪は清潔なスポーツ刈りで、大きな目と、整った顔立ちが印象的だ。もちろん顔は、茶色く日焼けしていた。
「えーっと、薫さん、で、いいんだよな」
主将は、薫のネームプレートに顔を近づけた。
「はい。さっきはありがとうございました」
薫も、主将のネームプレートを見る。
高橋敬というのか。
胸がどきん、とした。
「さっさと片付けてしまおうぜ。俺、身長高いから、やるよ」
高橋先輩は床に散乱したハードカバーの本を集め、片手に抱きながらするすると脚立を登る。
「50音順で、いいんだよな」
「ええ、まぁ」
本当はジャンル分けも必要なんだけれど、無償で手伝ってくれる先輩に指図をしたくなくて、それでいいと答えた。後で自分が直せば良い。
「ところで、薫さん、何かいい本ないかい? 俺、普段読書しないんだけどさ、進路指導の先生に何か読んどけ、って言われたんだ」
本を並べ終え、高橋先輩が脚立の上で頭をかいた。
「進路指導って、先輩、野球推薦で大学いくんじゃないんですか?」
清水高校は、野球の名門だ。甲子園まであと少し、という事が何度もある。
「そりゃ、野球推薦使うよ。でも、大会の結果次第で行ける大学が決まるんさ。強豪の大泉に西村っていうとんでもない投手が入ったから、大泉に当たったら負ける。それに、スポーツ推薦でも面接はある。だから進路の先生が、『感銘を受けた本』を考えとけってさ」
つまり大学受験用に教養に溢れた、と思える本を探せということか。
「ちなみに、読書のレベルは」
「ほとんど無い。現国の授業は寝てたし、『ハリー・ポッター』は途中で投げ出した。劇場になってるラノベの1巻を、何とか読んだくらいかな」
相当重症だ。勧めたい本はいくつもあるけれど、本人に読む気力がなければ読書など意味がない。薫は頭をひねる。
「『思い出のマーニー』って、知っていますか?」
「ああ、ジブリで観たよ。最後、ちょっと良く分からなかったけど、面白かった」
「マーニーの、原作本はどうですか?」
「え、あれ原作あるの?」
薫は書架まで走って行って、一冊の本を差し出した。
『思い出のマーニー ジョージ G ロビンソン作』
「うわ、マジで。海外作品じゃん」
高橋先輩はページをパラパラめくり、
「これだけ薄ければ読めるだろ」
と薫に本を差し出した。
良かった。気に入ってもらえた。
一瞬、真っすぐに瞳と瞳が交差し、胸がドキッとした。
薫は本の後ろの貸し出し用バーコードの処理をした。
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