試合

1/2
前へ
/7ページ
次へ

試合

 夏の大会が始まった。清水は、さすが名門、という感じで、2回戦、3回戦と順調にコマを進めた。    薫は、ベンチには入れなかったが、会場で思い切り声を出した。新型コロナウイルスのせいで、マスク着用の応援だった。息が切れるが、仕方ない。  試合場で生き生きと躍動する選手達。一挙手一投足に目がいく。ヒットを出せば自分のことのように嬉しかったし、エラーをすれば選手と共に悲しんだ。  準々決勝は、因縁の大泉高校だった。  マウンドに上がった西村投手は、正直小柄で、清水のレギュラーと比較しても標準的な体形だなと思われた。  しかし、外見と投球は違う。  ただの平凡なストレートだと思うのに、清水のバッターにかすりもしない。 「ほら、彼の投球フォームって、どんな球でも変化しないでしょ。あれで、正確なストレートを緩急自在に投げるんだから、見えてても、当たらないよ」  同じくベンチ入りができなかった桃花マネージャーが、薫をつつき、教えてくれた。  新入りの薫にはフォームの違いは分からなかったが、さほど早いとは思えない球が三振の山を築くのを目の当たりにして、西村選手の凄さを肌で感じた。  高橋先輩も全力のピッチングする。普段の投球練習では顔色一つ変えないのに、この試合は歯を食いしばり、必死だ。  互いに6回まで無失点の試合が続いたが、ついに高橋先輩の球が大泉のバッターにとらえられた。カン、と音がして、左中間を抜けるヒット。次のバッターは三振に打ち取ったが、三人目の打者にホームランを打たれた。  だが、高橋先輩は折れなかった。得意のカーブで2失点に抑える。  清水打線は、最後まで西村投手をとらえることができなかった。数本ヒットを打ち、意地を見せたが、得点にはつながらなかった。  夏が終わる。  清水の選手は周りが見ている中、涙をこらえているのだろう、空を仰いだり、うつむいたりしていた。高橋先輩が、土で汚れた野球服のそでで、目を拭いた。きっと泣いていたのだろう。  薫は、高校生の泣き顔を初めて見た。何かに真剣になった時、自然と悔し涙が流れるのか。  涙は、とても純粋で、綺麗だなと思った。薫も、気づかないうちに一筋の涙を流していた。  高橋先輩にどんな言葉をかければ良いのか。そう考えると、薫の胸はどきっとした。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加