告白

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告白

 夏の大会が終わり、薫のメインは図書館活動に戻った。もちろん野球部のマネージャーを止めたわけでは無いけれど、高橋先輩がいた頃の熱心さは残っていなかった。  薫は、野球好きよりも高橋先輩のことが好きだったんだなと思った。 「おーい、薫さん、呼んだぞ」  高橋先輩が『思い出のマーニー』を抱えて現れた。 「良かったよ。マーニー。でも、進路の先生が、もうすぐ成人するんだから、もっとしっかりしたものを読めって、文句つけて」  マーニーはしっかりしていないのか。薫は進路指導の先生に嫌悪感を持った。 「じゃ、ダニエル・キイスの『24人のビリー・ミリガン』はどうでしょう。アドレナリンを自由に操る人格が出てきますし」 「アドレナリン? すげえ、無敵じゃん、そいつ」  あ、でも、犯罪者が出てくる小説だから受験には不向きか。 「『アルジャーノンに花束を』が有名です。迷っているなら、是非」  高橋先輩を前にすると、胸がドキドキする。 「よっしゃ、それを借りてみるわ」  何か言いたいのに、何も言えない。黙って貸し出し処理するだけだ。  秋が終わり、冬の風が木々の間を吹き抜ける。 「薫さん、大学、受かったぞ」  高橋先輩が、意気揚々と図書館に入ってきた。  推薦合格した大学名を告げる。あまり偏差値は高くないが、古くからある名門校だった。 「『アルジャーノン』、良かったよ。受験では聞かれなかったけど。主人公が天才になる描写が凄い」  そう言って、本を差し出す。  胸がドキドキ。  図書館で、二人きりだ。 「あ、合格、おめでとうございます。冬休み、楽しく過ごせますね」 「ありがとな。友達とスキーに行くわ」  高橋先輩はそう言って、薫に背を向ける。  薫は、後ろから声をかけることができなかった。  無難な言葉で会話を終えてしまったと後悔した。  1月はあっという間に過ぎ、季節は2月に入った。残雪がうっすらと校庭を白く彩る。薫は相変わらず本に囲まれながら、整理を続けた。  高橋先輩が訪れると思っていたが、どうやら薫の希望的観測だったようだ。普段読書しない先輩は、わざわざ図書館まで来ることは無いのだろう。  カレンダーを見る。もうすぐバレンタインデーだ。  そう思うと、心がドキンする。  今回も、野球部マネージャーと同じように、自分から積極的に行動しなければならないのかもしれない。マネージャーをやっいているおかげで、高橋先輩と付き合っている人はどうやらいないと知った。大きな収穫だ。  伊藤先輩が密かに好意をよせているかも、という噂も耳に入った。美人で、溌剌(はつらつ)としていて、リーダーシップもある。彼女に勝てるだろうか。
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