12 木崎君とお買い物

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12 木崎君とお買い物

「ほれ、こっちの豚コマいつもより安いんじゃね?」 ワゴンの中を物色していると、すぐ横のお肉売り場から木崎君が僕を呼びました。見ると、お肉の陳列ケース前に立つ、スラリとした超絶美形男子高校生。 激安スーパーにスタイリッシュ男子高校生。 いつもながらシュールな光景だな~。周りの買い物客のご婦人がたもチラチラ見ています。すいません、連れが無駄にキラキラしてて。 豚コマ安いと聞いて、どれどれ...と、木崎君に歩み寄る僕。 国産で100グラム108円とな...?た、確かに安い...。 「買いだね...!」 「あ、やっぱり?いぇーいwww」 「...ありがとね」 ...といっても、僕は順繰りに見ていくから気づいた可能性も高いんですが。でもお手柄だろ?と鼻高々になっている木崎君の鼻を折るほど、現世の僕は冷酷な人間ではないので、少し笑ってお礼を言います。すると木崎君は、じっと僕の顔を見つめ、呟きました。 「...かわぁ...」 「...」 「マジで、各務の顔って凡可愛いよなあ...いや、めっちゃくちゃに可愛い」 「......」 コメントに困ります...何だ、凡可愛いって。凡可愛いとめっちゃくちゃ可愛いって結構隔たりあるんじゃない? 先に言ったように、転生した木崎君は、前世とは全く性格が違います。違うというか...打って変わってめちゃくちゃパリピなところがあるんです。つまりチャラい。今のように思った事をサラッと口に出したりもするので、その度に僕は内心困惑です。僕の顔がごく平均なのは、判定スキルで数多の人々の美醜を査定してきた(まあ数字が見えてるだけなんですけど...)僕自身が1番よく知ってます。自分の数値は見えませんが、数字を付けるとしたらおそらく...50~60あたりってところでしょうか。ほんとに可もなく不可もない、当たり障りない顔立ちなので。 学校では僕に平凡平凡と言うのに、校外では事ある毎に可愛いとのたまってくる木崎君。 まあ、それはもう慣れました。問題は、その後に続く言葉なんですよね...。 「マジで全てがちょうど良い、悪戯に人目を惹いて俺を嫉妬させる事も無いし...」 「......」 相変わらずツッコミどころが満載。全てがちょうど良いとか人目を惹かないってのが褒め言葉なのかディスりなのかは置いといて。 転生して美にはあまり頓着しない性格になったように見える木崎君ですが、何故か平凡な僕に対してはそんな事を言ってきます。仰る通り平々凡々な僕が99点の木崎君より人目を惹く訳がないので、安全圏の程良い引き立て役なんでしょうが...なんか複雑だなぁ。 しかし、毎度同じ事を考えていても仕方ないので、僕は気持ちを切り替えて言いました。 「...じゃ、卵売り場行きましょうか。あ、今日お米買わなきゃなんでした...」 「5キロ?10キロ?どっちでも持ってやるから任せろ」 「ありがとう...」 ...まあ、優しいんですけどね。 我が家は共働きで、帰宅の遅い両親に代わり、中学に上がった辺りからは殆どの家事を僕が引き受けてきました。勿論その中には毎日の食事の用意も、その為の買い物も含まれていて、木崎君はその買い物という工程に毎日のように付き合ってくれています。正直、食用油やお米なんかの重い物を買う予定がある時はありがたいです。別に僕が非力って事ではないんですが...まあ持たなくて良いなら持ちたくないですし。あと、1人1点までという個数制限がある時とかも助かりますね。所帯染みててすいません。 で、木崎君はその買い物につき合い、荷物を持ってくれた後、僕んちの前か、重い物がある時は玄関の中まで運んでくれてから、お礼のお茶も断って颯爽と帰って行くというパターンだったんですが...今日は違いました。 「ありがと、じゃあお邪魔します。ついでに米も運ぶわ。キッチンどこ?」 僕が、『お茶でも飲んで行きなよ』といつもの社交辞令を口にすると、肩に担いだお米を玄関先に置く事も無く、木崎君は靴を脱いで框を上がったのです。 木崎君が僕んちに上がるなんて、高校の入学式で再会してからというもの初めての事です。 僕はとてもびっくりしました。てっきり今日も、颯爽と帰って行くかと思っていたので。 しかし、お礼にお茶でもと言ったのは僕の方だし、いつもいつも荷物を運んでもらっている事もあり、今更変な顔もできません。こうなったら満足なお礼も出来なかった今までの分もおもてなししようかなと考えました。 キッチンのカウンターにお米を置いてくれた木崎君を、隣接するリビングのソファに案内して座ってもらい、僕は再びキッチンへ取って返しました。木崎君にウチに現在ある飲み物のストックを言ってその中からリクエストを取ると、ダージリンティーを所望されました。なのでケトルに水を入れ、スイッチON。お湯が沸くまでの間にお茶の用意をします。トレイに来客用の紅茶のカップを置き、戸棚の中から出したダージリンのティーバッグをカップにセット。ソーサーに紅茶用のブラウンシュガーのスティックも添えました。これは母の趣味です。僕には砂糖を替えた事による味の違いはイマイチわかりません。というか、そこを拘るなら茶葉から入れろと思いますね。(暴論) せっかくなので僕も自分のマグカップにティーバッグを入れてセットします。因みに僕は紅茶は無糖派なのでシュガースティックは要りません。 お湯が沸いたのでそれぞれのカップにお湯を注ぎ、トレイを持って木崎君の待つリビングへ向かいます。 「お待たせ」 「ありがとう」 にっこり微笑む木崎君を見て思いました。 ...99点にティーバッグ紅茶で良かったのかな?
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