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兄の決断と両親の思い
週末、漣は誠から呼び出され、実家に来ていた。
リビングでは、父 良太が酔っぱらって寝落ちしていた。
「母さん、父さん、何でこんなに昼間から酔っぱらってるの?
また、凝りもせずここで寝てるし」と漣が呆れて言う。
「お父さん?会社の部下の結婚式でね、さっき帰って来たのよ。
スピーチ上手く言えたって上機嫌だったのよ」と雅子が言った。
漣は良太に毛布を掛けると誠の傍に座る。
「兄貴、用事って何?」と漣が誠に聞いた。
「ああ、お前に話があってな……」と誠は漣にマグカップを渡す。
「漣、俺、栞と別れたから。栞とは結婚
しない」
「何だよ突然、結婚しないって、どういうことだよ」
「栞と会ってそう決めた。お互い別々の道を歩むことを決めたんだ」
「会ったって、栞さんのこと見つけたの?」と漣が言った。
「ああ、栞はここにいる」と誠が漣に栞の居場所を記したメモを見せた。
「ここって……」メモを見た漣が驚いて
誠を見た。
「ああ、栞はここにいるりだから、漣、お前栞に会って来い」
「会うって、出来ないよ俺。だって、兄貴が」
「漣、俺は大丈夫だよ。俺思ったんだよ。
栞が悲しい時や苦しい時、不安な時、俺はいつも漣に栞を押し付けてたなって……。
栞が苦しい時、助けに行くのはいつも漣、お前だったって気が付いた。悔しいけど、俺じゃ栞を守れない……。
栞を助けられるのは漣、お前だけなんだって。
今、栞の心が苦しんでる。助けを求めている。
だから、漣、栞を助けに行ってほしい。それが出来るのはお前しかいない…… 」と誠が漣を見つめて言った。
「兄貴、でも……」と漣が躊躇する。
「大丈夫だ、俺は、お前と栞の間には
割り込まない」
「兄貴、ごめんな。俺が……俺が」と漣が目に涙を浮かべた。
「漣、もう何も言うな。俺はお前を弟としてではなく、一人の男として栞を託したいと思っている。
漣、栞を助けに行け! 今度はお前が栞を迎えに行ってこい!」
と言うと車のKeyをテーブルの上に置いた。
「兄貴、ありがとう」と言うと漣はテーブルからKeyを取ると外へ走り出した。
車のエンジン音と車が駐車場から出ていく音がした。
誠から渡されたメモには、『森の中の美術館』と記されてあった。
栞は、『大切な人との思い出の場所』にいた。
漣が、車を走らせる。大好きな彼女の元に……。
彼女を『心の中の苦しみ』から
助け出すために。
リビングでは、漣の後ろ姿を見つめる誠、
「誠、よく言った! かっこよかったぞ。流石、俺の息子だ!」寝落ちしていたはずの良太が誠に背を向けたまま言った。
「なんだ。父さん、起きてたのかよ。明日、栞のご両親に正式に婚約破棄とこれからのことを説明しに行くよ」と誠が言った。
「じゃあ、父さんも一緒に行くからな」
「何でだよ、一人で大丈夫だよ……」
「ばかだな。これからのことがあるから、
俺たちも一緒に行くんだよ。栞ちゃんのご両親にも説明が必要だからな……。な、雅子」と良太が言った。
「そうですね。お父さん、大事な息子たちの将来のことだから、しっかり説明が必要ですね」
と雅子が微笑みながら言った。
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