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『運命の印』
「ね~、新郎さんとそのご兄弟、超イケメンなんだけど……。
モデルさんみたいで、お嫁さんも可愛くてそのままうちホテルの宣伝用ポスターにしてもいいみたい」式場の女子スタッフたちが話す。
ここは、結婚式場となるホテルの一室。
窓際に立つ漣、そこに誠がやって来た。
「漣、大丈夫か?」
「ああ、やっぱり緊張するな……」と落ち着きがない漣。
そこへホテルスタッフが声をかける。
「花嫁さん、お支度ができました」
漣と誠がドアの方を見た。
すると、純白のウエディングドレスを着た栞が入ってきた。
二人は思わず息を飲んだ。
「栞さん、綺麗だ」と漣が言う。
「栞、似合ってるよ」と誠が言った。
栞が二人の元にゆっくりと歩いて来た。
「漣君、誠 本当? うれしいな」と栞は嬉しそうに言った。
それを聞いた漣が言った。
「兄貴……その、俺が栞さんのこと『栞さん』って読んでるのに、兄貴が『栞』と呼び捨てにするのは、ちょっと……、それに栞さんも俺のこと『漣君』と呼んでるのに兄貴のことを『誠』って呼び捨てにするのも……ちょっと」
と漣は少し口を尖らせ、すねたように言った。
それを聞いた誠と栞は顔を見合わせて笑った。
「ははは、確かに変だよな。じゃあ、俺は、
今日から『栞ちゃん』って呼ぶよ。それでいいか?」と誠が言うと「はい!」と栞が頷いた。
「それじゃ、私は『誠さん』いや、
『お兄さん』でいいかな?」
「ああ、それでいいよ。栞ちゃん」
と誠が言った。
それを聞いた漣は笑顔で「ああ、じゃあ、今日からそれで……」と言うと、栞と誠の手を握った。
誠・栞・漣・三人に昔の笑顔が戻った瞬間だった。
誠が栞に言った。「これからは、兄貴として
家族としてよろしくな。栞ちゃん……」栞も「はい、お兄さん、こちらこそ宜しくお願いします」と言った。
その光景を見たすべての人々がこの三人を温かく見守っていた。
教会での式は厳かに執り行われ、教会の入り口から漣と栞が出てきた。
それを多くの参列者が祝福する……。
「須藤君、なんで私をここに呼んだの?」とさおりが言った。
「さあ、何ででしょうかね?主任にもこの二人の姿を見てほしかったというか……」
少し離れた場所から二人を見る誠とさおり……。
「ふ~ん。あなたの決意みたいなもの
かしらね、よく決心したわね」
「決意っていうか。俺の後悔でしょうかね?」
「後悔?」
「はい、俺は、栞を長く待たせ過ぎた。もっと早く幸せにするべきだった。
漣が……弟が大人になってしまう前に」
「次は、待たせないように頑張らないと!
ところで、ロサンゼルスには何時経つの?」
「明日の便で」
「そう、でも異例の大抜擢よね。ロスの支社に行くなんて。日本には何時頃戻れるの?」
「数年は戻れないと思います。主任、落ち着いたら連絡しますから、俺に会いに来てくれますか?」と誠がさおりの顔を見て言った。
「ロスまで打ち合わせに来いってこと?」
「はい、打ち合わせに……続きは俺の部屋でもいいですよ」
「あれ? 打ち合わせは会社以外ではしないんじゃないの?」とさおりが笑いながら言った。
「そうでしたっけ?」と誠も笑いながら
言った。
「考えておくわ」と言うとさおりは誠の前から歩き去った。
教会の階段を降りる漣と栞、
白いレースに包まれた白く細い栞の左手首を漣がしっかりと握っている。
二つの傷跡が一つに繋がる。
誠はその一つに繋がった傷跡に目を細めた。
誠・漣・栞 三人が出会ったあの日から、
長い時間が流れた。
6月のある晴れた日曜日、初夏の風が誠の頬をそっと包み込む。
「二人の間には誰も入ることはできない。
互いに『運命の印』が刻まれてるんだから」
と言うと誠は空を見上げて笑った。
~完~
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