可愛い君と素敵な彼

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可愛い君と素敵な彼

 園田 栞 17歳、ごく普通の高校2年生。 特にとりわけ秀でるものはない。  彼女の取り柄は、しいて言えば、明るく、 素直、サラサラの黒髪ぐらいだろうか。  彼女には同じ年の彼氏がいる。名前は  須藤 誠 学校一のモテ男。  眉目秀麗、成績優秀、容姿端麗、 誰もが憧れる存在の彼。  高校2年の春、誠からの突然の告白を受けた栞は、今だに信じられないと思っている。  誠は一言で言うなら、『クール』という 言葉がよく似合う。  スタイル抜群の彼、道を歩くと誰もが 振り返るモデル並みのイケメンの彼氏。  今日も栞は彼の後ろをついていつもの道を歩く。  「栞? なんでいつも俺の後ろを歩くの?」  と誠が不思議そうに言った。  「え~と、その、他の人の視線が突き刺さる。 今にまだ慣れなくて……」  「何いってんの? 俺たち付き合って、 もう2ケ月だよ。そろそろ慣れろよな」  と言うと誠は栞の手を握り歩き出す。  手を引かれて歩く栞、かすかに頬を赤く染める 栞の姿に誠が微笑む。  「誠の家?」  「そう、俺の家、明日の学校帰りに来ない?」  「明日?」  誠からの急な誘いに少し驚く栞。  「だめか? 何か予定あるの?」 珍しく聞いてくる誠。  「だめじゃなく、予定もないけど、 その……何で?」  「母さんが栞に会わせろ、会わせろって うるさくて、ごめんな。いいか?」  「そう、わかった。明日、放課後に行くよ。  誠の家」  「そうか、ありがとう。栞……」  誠が立ち止まると、  「栞……」  と言うと鞄で二人の顔を隠し、 自分の顔を栞に近づけ、 彼女の唇に優しく触れた。  夕陽に照らされた二人の影が重なる。     クールな彼、こういう一面を持つ彼に栞は どんどん惹かれていく……。  次の日の放課後誠に連れられ、 彼の家に行くことになった栞は バスを降りると、銀杏並木沿いの道を 歩いて行く。 「何か緊張するな」 「何で? 大丈夫だよ」 「だって、やっぱり、その…… 初めて好きな人の家に行くわけだし…… それにお母さんにも会うわけだし、 誰だって緊張するでしょ」 「そうか? 俺は、緊張しなかったよ。 この前栞の家に行った時、栞のお母さんも 超優しかったし……」 「そりゃあ、誠は緊張しないでしょ。絶対!」 栞が走り出す……。 「何で? ね~、何で? 何でだよ~」 笑いながら誠は栞を追いかける。  銀杏並木沿いを抜けると住宅街に入ると、 住宅街の中心に公園があり公園を右手に曲がり 程なくして、2階建ての誠の家が見えた。 「俺の家ここね」  と言うと誠は門を開け、数段の階段を上り 玄関のドアを開けた。 「母さん~。ただいま。栞連れて来たよ」 「は~い」  と家の中から声がすると、パタパタと玄関に 向かう足音が聞こえた。 「初めまして、園田 栞といいます。  今日は、お招きありがとうございます」  と緊張しながら栞は挨拶をした。 「まあ、まあ、あなたが栞さんね。  初めまして、誠の母の雅子です。  誠がいつもお世話になってます。  今日は来てくれてありがとう。  さあ、あがって!」  と言うと、栞を家に招き入れた。  雅子の気さくさに栞の緊張も少し和らいだ。 「お邪魔します」  と言うと、栞はくつを脱ぎ室内に入った。  玄関を入って廊下をまっすぐに歩いて リビングに入る。  途中には2階へ上がる階段があった。 「ここに座って」  と雅子からソファーに案内され、 ソファーに誠と並んで座る栞。 「栞、緊張してるの?」  誠が栞の顔を覗き込む。 「だ・だいじょうぶだよ」 と栞は慌てて言った。 「可愛いな」  誠が栞の耳元で囁くと、   栞の顔は真っ赤っか……。  雅子がお茶とお菓子を運んで来た。 「はい、どうぞ。紅茶とお菓子、  このお菓子美味しいのよ。  それに、可愛いでしょ?」  と言うと、二人の前にテイ―カップと お菓子を置いた。  「このお菓子、かわいい。 じゃあ、いただきます」  と栞はカップを手に取り口元に運んだ。 「おいしい」  栞の言葉に雅子は喜んだ。 「よかった~。お菓子も沢山食べてね。  やっぱり女の子はいいわね~。  ほら、うちは男の子ばっかりでしょ?   だから、こんな女の子が好むお菓子とか  出しても、無反応なのよ。誠は食べないし」 「そうか? そんな、お菓子に 可愛いとか俺わかんないよ」  と誠が言った。 「でも、誠がね、よかったわね。  誠、栞ちゃんが彼女になってくれて」  と雅子が誠の顔を見て言った。 「え? 私が何か?」  と不思議そうに栞が尋ねる。 「誠ね、実話、中学生の頃から栞ちゃんのこと 知ってたみたいなのよ。  詳しいことは教えてくれないんだけど、  で、この子、ほら、こんな感じで あんまり自分のこと話したがらないんだけど、 高校に入学して暫くした頃に栞ちゃんと会えたって、同じ高校だって言ってきたの。  その時の誠の顔はとても嬉しそうだったのよ…… で、彼女が出来たって聞かされた時に誰?って 聞いたら、園田栞さんって照れながら教えてくれたわ」 「そう……そうなんですか。  私、中学生の頃は隣町の中学校に通ってたから、 誠のことは知らなかったな」  と栞は誠の顔を見た。 「母さん、その話はもういいだろ?  何でそんなこと栞に言うんだよ」  と誠は照れながら言った。  誠の意外な一面を見た栞は少し嬉しかった。 「お母さん、ただいま。誰か来てるの?」  と可愛い声とともにランドセルを背負った 男の子がリビングに入って来ると三人を見た。 「あっ! お帰りなさい」  雅子が椅子から立ち上がる。 「お客さん?」  男の子が雅子に聞いた。 「この人ね、お兄ちゃんの彼女、 園田 栞さんっていうのよ。あなたも挨拶して」  と雅子は男の子を栞の前に連れていく。    男の子は栞の前に立つとランドセルを 床に置き深々とお辞儀をして、 「はじめまして、弟の漣、 須藤 漣といいます」  と栞を見上げて言った。  栞もソファーから立ち上がると、 「はじめまして、園田 栞といいます。  よろしくね! 漣君!」  と漣を見下ろし笑顔で言った。  栞の笑顔を見た漣は少し、  恥ずかしそうに顔を下に向けた。 「可愛い~。私、姉弟いないから  弟が出来たみたいだな」  と栞が言う。 「まあ、確かに俺の弟だから、 ビジュアルもいい感じだろ?」 と誠が漣の頭をポンポンと叩きながら言った。 「兄ちゃん、痛いよ」  と漣が迷惑そうに言った。  栞にも誠が少し年の離れた弟、 漣を物凄く可愛がっているのがよく伝わってきた。 「ね~、漣君はいくつなの?」 「11歳、小学5年生」 「きゃあ~益々可愛い」  と栞が漣を見つめる。  少し照れた漣は、キッチンの カウンターにあったお菓子の残りを 手に取ると二階に上がって行った。  これが、栞と漣の最初の出会いだった。  その様子を見た誠が 「何、漣のヤツ恥ずかしがっての?」  と言った。 「さあ、きっと可愛い女の人がいたから 照れたんじゃない?連にとっても栞ちゃん みたいなお姉ちゃんがいたら 嬉しいんじゃないかな」 「ふ~ん。そうか」 「あっ! 栞ちゃん、今後も遠慮せずに 遊びに来てね」  と雅子は言った。 「ありがとうございます」  栞は笑顔で雅子に言った。  それからは、栞は時々、 放課後に誠の家に寄るようになった。 「こんにちは、漣君」 「あっ!栞お姉ちゃん、こんにちは。 お母さん、栞お姉ちゃん来たよ」  と嬉しそうに漣がリビングにいる  雅子に知らせる。 「いらっしゃい、栞ちゃん、あれ一人? 誠は?」  と雅子が栞に聞いた。 「なんか、職員室に呼ばれて、 先に行っててって言われて」 「職員室? あの子、何かしたのかしら?」  と雅子は栞に聞いた。 「いや、そうじゃなくて、委員会? みたいな」 「そう、ならいいけど、私、これから 買い物行くから、栞ちゃんゆっくりしててね」 「漣、漣、お母さん買い物に行ってくるから、 栞ちゃんと留守番お願いね」  雅子は2階の部屋に向かってそう言うと 「じゃあ、栞ちゃん」  と玄関を出て行った。  栞は、雅子を玄関で見送ると 階段の上を見上げた。階段上には漣が立っており、 栞を見下ろしていた。  漣の手には、『植物図鑑』が握られていた。 「漣君、植物好きなの?」  と栞が漣に聞いた。 「うん、好き。他にもあるよ。栞お姉ちゃん見る?」  とサラサラ髪の可愛い漣が栞に言った。 「いいの?じゃあ、見せてもらおうかな」  と言うと、栞は階段を上がり、二階にある 漣の部屋に行った。 「うわ~。すごいね」  部屋に入ると、ベッドの横に彼の身長より 高い本棚がありそこには沢山の植物の本、 図鑑と何かのコンテストで受賞したと 思われるガラスでできた盾が数枚並んでいた。  漣が嬉しそうに言った。 「栞おねえちゃん、こっちに座って」  と栞をベッドに座らせ、自分がおすすめの 本を本棚から数冊取って栞に見せた。  おすすめのポイントを一生懸命説明する漣に栞は 「純粋で可愛いな。漣君の横顔は誠と 同じくらい整っているな。  彼も大きくなったらきっと イケメンになるだろな~」  とか考えてしまうのであった。 「おねえちゃん? どうしたの?」  純粋な眼が栞の顔を見る。 「ううん、何でもないよ」  と言うと栞は漣がおすすめの ページの写真を見た。 「やべ~。遅くなった。栞、待ってるだろうな」  バスを降りた誠は急いで家路に向かう。  後ろから聞き覚えのある声が聞こえて来た。 「誠~、誠~  両手に買い物袋をさげた雅子が誠を呼んでいた。 「母さん、何してんの? 栞は?」 「買い物よ。栞ちゃんは漣と留守番してるわ」 「そうか。それ、持つよ」  と言うと誠は雅子の手から買い物袋を取った。  二人が、住宅街の中心にある公園に 差し掛かった時だった。 突然地面が突き上げられる感覚を覚えた。  その瞬間、身体が左右に動き身動きが取れない状態になった。 「母さん、地震だ! 伏せて」  と誠は雅子の手を掴むと身を寄せ合い その場にしゃがみ込み揺れが収まるのを待った。  同じ頃、栞と漣は漣の部屋でベッドの上に 本を並べて楽しく話をしていた。 「栞おねえちゃん、喉乾いたでしょ?  僕、ジュース持ってくるから待ってて」  と漣がベッドから立ち上がり1階に降りて行く。  暫くすると、ジュースが入ったコップを大事そうに漣が運んで来た。 「はい、おねえちゃん、ジュース」  と漣が栞にコップを渡す。 「ありがとう」  栞はコップを受け取ると机の上に置いた。  突然、カタカタと音を立てコップが机の上で動き出す。  すぐに体が横に揺れるのを感じ栞。 「えっ? 地震?」  栞がそう理解した瞬間、 「おねえちゃん、危ない」  漣の声が聞こえた。  漣に左手首を掴まれ体を前方に引き寄せられた栞は漣とそのまま床に倒れ込んだ。 どれくらの時間が経過したのかはわからない。 ベッドの上には散乱した沢山の本、 床にはこぼれたジュースと 割れたコップのガラスの破片が散らばり、 その脇には栞と漣が折り重なるように倒れ込んでいた。  栞と漣から流れたであろう鮮血が赤く床を染めている。 「栞!  漣!」  誠が叫びながら玄関から入ってきた。  二人がリビングにいないのを確認すると 階段を駆け上がり漣の部屋のドアを開けた。  誠の目の中に飛び込んできたのは、 倒れ込み動かない栞と漣の姿、 そして床に流れた鮮血だった。 「母さん、母さん、救急車!」  と誠が叫んだ。
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