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「サマエルさま……」  サマエルの袖をひっぱると、私の意図に気づいたのか眉をひそめられた。 「ただの作り話かもしれないぞ?」 「でも本当かもしれないです。妹が苦しんでいるなら、同じ兄として、サマエル様も同情できるはずです」 「……お前以外の妹は知るか」  口ではそう言うものの、サマエルはオイディに剣を収めるように手で指示した。それから好きにしろというように、私にアゴをしゃくって見せた。  本当は優しいのに、不器用な人。  くすりと笑って、私は少年の前に進みでた。 「半分でもよろしければ、差し上げましょう」   「いい、のか?」 「ええ、もう半分は持ち主に返したいので、その……」 「持ち主? そうか、なら弁償金もーー」 「いいです! そう言う意味での、持ち主ではないので……」  白馬に返したところで体調が戻るわけではないが、なんとなくそうするべきだと感じた。  角に魔力をこめると意外にも簡単に折れた。便利すぎる!  ただで渡すと相手も気がひけると思い、きっちり大金貨5枚をもらって交換した。   「妹が早く治るといいですね」  深く被っていたフードをかきあげてそう伝えると、私の顔を見て少年が目を見ひらいた。 3f6880ef-8f08-4293-9e5e-26279b7e6720 「……あり、がとう。君は、……綺麗、だね、……その、心も、容姿も……」    やや頬を紅潮させて、少年がどこか照れたようにそう言った。  リリトは小説でも屈指の美少女だから、それは事実である。  とは言うものの、実は私も彼の容貌に驚いている。  甘い蜜のような黄色い髪に、澄み切った海のような青い瞳。  サマエルと違った雰囲気だが、れっきとした美少年だ。  まるで物語りの主人公のようなーーん?  そういえば、この物語のヒーローも金髪碧眼の正統派王子だった気がする。  でも、小説だとリリトが15歳になってから登場するから、絶対違うよね……?  ヒロインである妹をサマエルに攫われて、助けるためにリリトを手にかけた。その人の名前はたしかーー 「私はランスロット。君の名前は?」  脳裏に同じ音が重なり、はっと頭が真っ白になった。
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