38人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
「サマエルさま……」
サマエルの袖をひっぱると、私の意図に気づいたのか眉をひそめられた。
「ただの作り話かもしれないぞ?」
「でも本当かもしれないです。妹が苦しんでいるなら、同じ兄として、サマエル様も同情できるはずです」
「……お前以外の妹は知るか」
口ではそう言うものの、サマエルはオイディに剣を収めるように手で指示した。それから好きにしろというように、私にアゴをしゃくって見せた。
本当は優しいのに、不器用な人。
くすりと笑って、私は少年の前に進みでた。
「半分でもよろしければ、差し上げましょう」
「いい、のか?」
「ええ、もう半分は持ち主に返したいので、その……」
「持ち主? そうか、なら弁償金もーー」
「いいです! そう言う意味での、持ち主ではないので……」
白馬に返したところで体調が戻るわけではないが、なんとなくそうするべきだと感じた。
角に魔力をこめると意外にも簡単に折れた。便利すぎる!
ただで渡すと相手も気がひけると思い、きっちり大金貨5枚をもらって交換した。
「妹が早く治るといいですね」
深く被っていたフードをかきあげてそう伝えると、私の顔を見て少年が目を見ひらいた。
「……あり、がとう。君は、……綺麗、だね、……その、心も、容姿も……」
やや頬を紅潮させて、少年がどこか照れたようにそう言った。
リリトは小説でも屈指の美少女だから、それは事実である。
とは言うものの、実は私も彼の容貌に驚いている。
甘い蜜のような黄色い髪に、澄み切った海のような青い瞳。
サマエルと違った雰囲気だが、れっきとした美少年だ。
まるで物語りの主人公のようなーーん?
そういえば、この物語のヒーローも金髪碧眼の正統派王子だった気がする。
でも、小説だとリリトが15歳になってから登場するから、絶対違うよね……?
ヒロインである妹をサマエルに攫われて、助けるためにリリトを手にかけた。その人の名前はたしかーー
「私はランスロット。君の名前は?」
脳裏に同じ音が重なり、はっと頭が真っ白になった。
最初のコメントを投稿しよう!