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罪なる愛
世界により、あの世とされる場所は幾重にも姿を変えることだろう。
何故ならば、世界を作った神様は一人ではないからだ。
Aの世界を生きた住人はAの世界を作った神様の元へ行き、Bの世界を生きた住人はBの世界を作った神様の元へ行く。さらに同じAの世界であっても、A1の神様を信じる人とA2の神様を信じる人がいれば信じる方の神様のところへ行くし、普通にAと呼ばれる神様が複数いて分担されているなんてこともあるのだ。
天国は一種類ではない。
そして、どんな天国が実際に存在しているかなんてのは、死んだ人間にしかわからない。一部の臨死体験したことのある人があいまいな記憶をもとに書いたエッセイなんてのはあるが、ほとんどの人は生きたまま天国を見て帰ってくることはできないのだ。
だから、思っていた場所とは違う、と私の目の前の少年がきょろきょろしていているのもなんらおかしなことではないのである。
「……あの世って、もっと淀んで暗い場所かと思ってた」
背は高いがやせっぽっち、それでも意志の強そうな青い目が特徴の十二歳の少年は。周囲を不思議そうに見まわしている。今、私と彼がいるのは真っ白な空間だ。本当に、白一色で何もない。実はこの場所こそ、次の世界へ進むための中継地点なのである。いわば、あの世とこの世を結ぶ場所、とでも言えばいいだろうか。
彼は神様というものを一切信じていなかったはずだ。しかし、この世界で神の存在を信じない者は少なくない。信じない者が多いのも当然ではある。ゆえに、多くの宗教ででたらめに言われているような“神を信じない者は問答無用で地獄落とされる”なんてことはないのだ。
判断されるのは信心ではなく、生前に善を成したか悪を成したかの一点のみである。
「あんたが、神様なのか?」
「そうです」
困惑したように尋ねる彼に、私は頷いた。
「ご安心ください。貴方が神を信じていなくても、それだけで貴方を裁くような真似はしません。今の世界情勢なら尚更、神を信じられない人が多いのは当然のことです」
「神様がそれ言うんだ。意外。ていうか、教会の壁画とかだと金髪碧眼の女神サマとかが描かれてたりするんだけど……あんたは全身マジで真っ白なんだな。男か女かもわかりゃしない」
「神に性別など必要ありませんからね」
「それもそうか」
私の説明に、彼は一応納得したようだった。それで?と続けてくる。
「俺はどんな地獄に堕ちるんだ?」
やっぱり、と私は唸るしかなかった。この少年は、自分が死んだら地獄に堕ちるのが当然だと思っている。神として平等に人を裁かなければならない立場、一人の人間に感情移入してはいけない私ではあったが、それでも胸が痛くなるのは事実だった。
何故ならば、彼は。
「貴方は煉獄行きです。試練を乗り越えたあと、天国に行くことになります」
「……は?」
少年の目が見開かれる。そして、ありえない、と引きつった笑顔を浮かべた。
「意味わかんね。俺は、山のように犯罪をしたんだぜ。たくさん盗みをやった、脅しもやった。しかも最後は、自分よりか弱い弟たちを殺したんだぜ?それで、何で俺が地獄に堕ちねえんだよ……!?」
確かに、彼はたくさんの犯罪を犯した。私はこの目ですべてを見たから知っている。人間の刑法に照らし合わせるならば、極刑もありうるほどの罪だろう。でも。
「その理由は、貴方が一番よく知っているのではないですか?」
私にはできないのだ。
彼のような人間を、地獄に堕とすなんて真似は。
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