7人が本棚に入れています
本棚に追加
***
「……田中さんそれ、よく無事でしたね」
翌日。二十歳年下の同僚に話すと。彼は俺の話を笑ったりもせず、こう言ったのである。
「それ、宅配業界で有名な都市伝説ですよ。カスガイロイヤルコーポ。あの世に立っているっつーマンションで、住んでる人間はみーんなオバケっていう」
「そ、そんな話があるかよ。きっと俺が、なんか夢見ただけで……」
「でも、マチダ団地まで宅配したのは事実でしょ?でもって、三年やってる田中さんが、三つも荷物見落とすなんてありえます?しかも超でっかいやつ」
「そ、それは……」
「それに、ウチって今九時までしか配達してないでしょ。八時半ならもう今日の配達ってかなりキビシーですよね。それなのに田中さんは配達しようとして、しかもその団地に到着したのが二十四時だったとか、そんなことあります?そんな時間に配達しようなんて思うはずないし、到着時間もおかしいっしょ」
言われてみれば、その通りだ。
なんで俺は平然と、とっくに配達時間を過ぎた深夜に荷物を届けようとしたのだろう?
いや、もっと言えば。あんな時間に配達したら、普通の人はとっくに寝ている。なのに、三軒が三軒とも、インターフォンを鳴らしたら普通に住人が起きていて出たのだ。そんなことがあるだろうか?
「その荷物、見なくてきっと正解でしたよ。死んだ人の荷物を見て、無事でいられるとは思えないし。いやあ、俺も最後の配達ってやつには気を付けないとなー」
あっはっは、と同僚は他人事のように笑ったが、俺にとってはまったく笑い話ではなかった。
思えば、荷物の伝票。宛先は書いてあったのに、送り主が一つも書いていなかった。それなのに俺はまったくおかしいとも思っていなかったのだ。
――ま、まさかな……。
トラックのカーナビの履歴は、何故か昨日の分だけきれいに消えていた。俺は、それが何を意味するのか深く考えないようにした。都市伝説なんて信じたくはない。でも、今でも深夜の配達はちょっとばかり怖いと思ってしまうのである。
あの荷物を見てしまっていたら、俺もあのマンションの住人になってしまっていたのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!