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はいたつ、はいたつ。
「うっわ、マジか……」
二十時半。
大きな団地への配達を終えたところで、俺は心底うんざりした。あと三つも荷物が残っている。効率的なルートを計算して荷物を運んできたつもりだったのだが、どうやらいくつか見落としてしまっていたようだった。よりにもよって最後に残った荷物たちはどれも、たった今配達を終えた団地より何十キロも南に行ったマンションのものらしい。
夜遅い時間とはいえ、この近隣の道路はそれなりに混む。俺はやや舌打ちをしながら、その段ボールをさながら親の仇のように睨みつけた。どれもかなり重たそうだ。特にそのうちの一つは、小さな子供ならすっぽりと入ってしまいそうな大きさである。配達員の苦労も考えろよこの野郎、とつい罵倒の言葉が出てしまいそうだった。
積んできてしまった以上、この荷物を届けないで仕事を終わらせるわけにはいかない。俺は渋々荷台を閉めると、運転席に乗り込んだのだった。
カーナビに“カスガイロイヤルコーポ”と入力する。表示された住所を目的地に設定して走り出した。カスガイロイヤルコーポ。五階建てのマンションであるようだが、今まで一度も配達したことがない場所だった。たまたまだろうか。
――早くやめてえな、この仕事。
助手席に固定したスマホから音楽を流しながら、俺はエンジンをかけた。駐車場を出て、トラックがゆっくりと走り出す。カーナビが示した最短ルートは少々混雑しているようなので、やや迂回する道を選択する。さっさと終わらせて帰りたい。何もやりたくてこんな仕事をしているわけではないのだから。
シロイヌ宅急便の仕事は大変だ。というか、配達の仕事をしているドライバーはみんな同じような苦労を抱えていることだろう。運転している最中、いつもお祈りをしている。どうか、インターフォンを鳴らして出て貰えますように。再配達になるのが一番面倒くさいのだ。置き配や宅配ボックスが使えるようなら問題ないが、荷物の全てに適用されるわけではない。
ましてやさっき見た大きな段ボールなんて、ほぼ確実に宅配ボックスになんぞ入らないだろう。置き配指定もなかったし、今受け取って貰えないと非常に困ったことになる。
――急げ急げ。
少しスピードを出して、俺は目的地へと向かった。
ああ、ギャンブルで作った借金さえなければ。そして自分がもう少し若ければ。もっと楽な仕事を選ぶこともできたかもしれないのに。
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