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俺が妻と別れたのは三年前、俺が五十二歳の時のことだった。原因は俺がギャンブルで作った借金が彼女にバレてしまったからである。これに関しては自業自得としか言いようがない。仕事のストレスを発散するために会社帰りにパチンコにのめりこんだら、そのまま抜けられなくなったというオチである。その結果、会社まで借金取りが押し掛けることになり、それが原因で会社までやめることになるのだから本当に踏んだり蹴ったりだ。
唯一の幸いは、昔引っ越し会社で働いていたことがあって(派遣従業員だったが)、そのために大型免許を持っていたということである。とにかく急ぎ金が必要だった俺は、急募、と書いてあったシロイヌ宅急便に配達員に応募したのだった。引っ越し業者の経験があり、必要な免許も持っている。向こうからするとおあつらえむきの人材だったのだろう、すぐに採用された。俺より年配のドライバーもたくさん働いている会社だったから余計ハードルが低かったと思われる。
以来俺は、朝から夜までシロイヌ宅急便で宅配の仕事をしてどうにか借金を返し続けている。借金も少しずつ減り、あと少しというところまで来ていた。妻も、きちんと借金を完済したらもう一度やり直してもいいと言ってくれている。愛想を尽かされたというより、彼女に迷惑をかけないために離婚したようなものだ。もうパチンコとも完全に縁を切っている。俺は必ず借金を完済し、ある程度貯金をためた上でもう一度妻を迎えに行こうと決めていた。
無論、貯金まで貯めるとなるともう少しばかり時間がかかってしまうのは間違いないだろうが。
――このエリアに勤務して三年になるが。……あるもんだな、一度も配達したことがないマンションなんて。
暫く車を走らせた後、俺は最後の配達先である“カスガイロイヤルコーポ”に到着していた。見るからに築ウン十年は経っていそうなボロボロのオレンジ色のマンションである。壁の一部がひび割れているのを見て、おいおい、と思わず突っ込みを入れてしまった。耐震構造はきちんと守られているのかどうか。いや、そもそも目に見える場所の壁も修繕しないなんてどういうつもりなのか。荷物を運んでいるうちに崩れてきたらどうしてくれよう。
時計を見ると、時刻は二十四時を回っている。急がなければいけない。
嫌な気持ちになりつつ駐車スペースにトラックを止めると、よっこいせ、とまず一つ目の荷物を下ろす。三つとも置き配禁止の荷物だった。一つ目は205号室だ。古いマンションあるあるで、やっぱりと言うべきか宅配ボックスがない。でもって、両手で抱えるサイズなので郵便ポストにも入るはずがない。
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