7人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は渋々エレベーターに乗った。四人乗りと書いてあるが、成人男性である俺が荷物を抱えて乗ればいっぱいになってしまうくらいの広さしかなかった。普段なら二階なんて階段で行くけれど、この荷物ときたら米俵くらいの重さがある。人気もないし許してほしいと思う。
205号室の、北川さん。
俺は何度も荷物を持ち直しながら、そのドアのインターホンを鳴らす。
「……はい」
インターホンではなく、直接ドアが開いて人が出て来た。長い髪に眼鏡をかけた、なんだか顔色の悪い痩せた女性である。
「あ、あの。こんばんは。シロイヌ宅急便です。ハンコお願いします」
「……」
彼女は俺に言われた通りに紙にハンコを押して荷物を受け取ると、あのう、と声をかけてきたのである。
「配達人さん。……この段ボールの中身、見ました?」
「え?見てませんけど?」
「……それなら……いいです」
「?」
彼女のはそのまま、ばたん、とドアを閉じてしまった。俺は首をひねる。段ボールはきちんとガムテープで閉じられているし、普通に考えるなら配達人が中身を見ることなんて不可能だ。見たとしたら確実に痕跡が残るだろう。というか、自分もプロである。ナニが楽しくて、人様の荷物を勝手に見なければいけないのか。そこまでモラルがない人間のように見えたのだろうか。
少々腹立たしくはあるが、気にしないことにした。というか、三年も宅配業者をやっていれば変人にあたることなど珍しくもなんともないのである。中にはインターフォンを鳴らしただけで罵声を飛ばしてくる客、ものを投げつけてくる客もいる。態度が悪いとかを咎めてくるならまだマシで、中には狂ったように俺とはまったく無関係の愚痴を長々と吐いてくる奴もいるのだ。まったく、どいつもこいつも配達人をなんだと思っているのだろう?彼らの多くは発払いで、自分でお金を払っているわけでもないというのに。
――とにかく、次だ次。
俺はトラックまで戻り、二番目の荷物を持ち出した。それは、妙に細長い箱に入っている。持ち上げると、ごとごとと中身が揺れる音がした。何か硬いものが入っているらしい、ということまでしかわからない。詮索する気もないが。
「これ、あのエレベーターに入るのか?」
重さはなんとかなるが、高さが危ない。俺は仕方なく、配達先の402号室まで階段で行くことにした。さっきの荷物より若干軽いから、多分なんとかなるだろう。
最初のコメントを投稿しよう!