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やはり相当古いマンションであるようで、階段がかなり急な作りになっている。荷物を抱えているのでどっちみち利用できないが、手すりがボロボロに錆びていて触ったら壊れそうだった。ぎしぎしと嫌な音を立てて軋む階段を足早に上ると、402号室の柏木さん宅の前に行き素早くインターフォンを鳴らす。
ぴんぽーん、という音が鳴ってすぐ住人が出た。
『どちら様ですか』
今度は、年配の男性の声である。多分俺よりもかなり年上だろう。爺は寝るのが早いと相場が決まっているのに、この男は深夜まで起きているのか――そんなことを考えながら、俺はなるべく明るい声を作って言う。
「シロイヌ宅急便ですー。お届けものに上がりましたー」
『……ちょっと待ってくださいね』
向こうでがさごそと動く音がする。多分ハンコでも探しているのだろう。俺が荷物を抱えたまま待っていると、暫くしてがちゃりとドアが開いた。
現れたのは、もっさりとした白い髭に、真っ白な髪の老人だった。俺はついつい、最近読んだ漫画を思い出してしまう。白い髪、白い髭の仙人が弟子の育成に苦労するというコメディファンタジー漫画。少年チャンプで最近人気が出て来たやつだ。この老人はまさに、その主人公の一人である仙人のお師匠様にそっくりなのだった。まさか、こんな老人が意図的に寄せているとも思わないが。
「……何かね?」
「あ、い、いえ、なんでもないです!ハンコここにお願いします!」
「ふん」
彼は俺が示した場所にハンコを押すと、俺と荷物を交互に見比べながら言うのである。
「配達員さん、その箱の中身ね、見ましたか?」
「ええ?み、見るわけないでしょ」
俺は思わずドキリとする。やましいことがあるからではない。さっきの眼鏡の女性と同じことを言うとは思ってもみなかったからだ。
「ひょっとして、このマンション全体で何かあったんです?配達員に、中身を見られる事件があったとか……?」
もしそうなら、さっきの女性の不信感に満ちた様子も説明がつくというものだ。しかし老人は首を横に振ると、そういうわけじゃないんですがね、と言った。
「ただ、残念だなと思っただけです」
残念ってどういうこと?俺が聞き返すより早く、段ボールをひったくられてしまう。そして、そのまま老人が勢いよくドアを閉めてしまった。
なんだろう、あの態度。いや、それ以上に気になるのは。
――今の、ダンボール……。
気のせいだろうか。
ひったくられる直前に、なんだか妙に熱くなったような気がしたのは。
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